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16 ◆ ページ16

「さよならとか別れようとか書かれてたら、さすがに諦めたかもだけどな。」



なんて、嘘。そんな言葉が書き連ねてあっても、諦めることは絶対にしなかった。


大体の人間はこの文面を見て、別れを意味することくらい理解出来るだろう。

別れを決定付ける言葉が明確に記されていなかったのだから、自分に都合良く解釈することで受け入れられなかった現実から逃げていた。


たった一枚のメモさえも捨てきれず、ずっと大切に仕舞ってきた。

その短いメッセージが例え、俺の心を苦しめるものだったとしても。



「だから俺とお前は別れてねえの。」



12年前から今日まで、想像もし難いほど深く傷付いていることくらい分かっている。

それでもAを手放してやることなど、俺には出来なかった。

こうして再び会えたのだから、二度と訪れない奇跡を無駄にするなんて絶対にしたくない。



「…屁理屈って言うんだよ、それ。」

「知ってる。でも本当じゃん?」



そうかもしれないと、Aが目を伏せた。


Aの手に渡った12年前のメモは再び綺麗に折り畳まれた。

それは俺の元には帰ってこなくて、少し皺になったAのブラウスの胸ポケットに仕舞われる。

空白の12年を繋いでいた心の拠り所を返して欲しい気持ちはあったが、言葉にすることは出来なかった。


真っ白な部屋に、暫しの静寂が流れる。

もしも拒絶されたらと思うと、どんな任務よりも怖いと感じてしまった。



「…信じたいよ、蘭くんのこと。でもね、」



怖いんだよ。


震えた声でそう呟き、必死に作り笑顔を浮かべるA。

あまりにも弱々しくて、目を離したら今にも消えてしまいそうだった。



「また、いなくなったら?優しく甘やかされて、明日には殺されたら?」



信じたいけど、信じきれない。

全てを鵜呑みに出来なくて、言葉の裏に隠された嘘を探そうとしてしまう。


そう話すAの気持ちが分からないほど馬鹿ではない。

もしも俺がAの立場になったならば、きっと同じような不安が体中を蝕むだろう。

そっと頬に触れれば、ぴくりと体を揺らした。



「だから、…蘭くんが信じさせてみせて。」

「約束する。」



自由や平穏を奪ってしまう代わりに俺の全てを惜しみなく捧げると誓い、左手を取って薬指にそっと口付ける。

Aが俺を選んだことを後悔させない。



「A、ずっと愛してる。」



その選択が間違っていないことを、この命を掛けてでも証明してみせるから。

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れん(プロフ) - まゆさん» まゆさま、コメントありがとうございます!お褒めの言葉、とても嬉しく思います!「一生幸せ」も読んでくださってありがとうございます☺️全然系統が違うのに一気読みしていただけて嬉しいです!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります✨ (3月18日 19時) (レス) @page23 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 初コメ失礼致します。お話が面白くメチャクチャ引き込まれてしまい、気づいたら一気に読んでしまいました!あと実は、れん様の他の蘭君のお話しも一気に読ませていただきました!どれも最高に良かったです!!更新頑張ってくださいね。応援しています。 (3月18日 8時) (レス) @page23 id: e4a4033c2e (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - とわさん» とわさま、コメントありがとうございます!沢山の蘭くんの小説の中からこちらを見つけてくださって嬉しい限りです!貴重なお時間を使って読んでいただいている分、面白かったと思ってもらえるようなお話に出来るよう頑張ります☺️ (3月16日 1時) (レス) @page21 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
とわ - 蘭くんの小説探してたらみつけたんで読ませていただいてます!めっちゃいいっすね…まじ好きな感じできてて… これからも読ませていただきます!応援してます!頑張ってください! (3月15日 3時) (レス) @page21 id: 8407209a34 (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - kizunaさん» kizunaさま、コメントありがとうございます!こちらのお話にも遊びに来てくださって本当に嬉しいです☺️更新頑張りますので、またお暇な時に読んでいただけたら幸いです…! (2月23日 21時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:れん | 作成日時:2024年2月23日 0時

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