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愛している。

その言葉を聞く度に、心がきつく締め付けられるように痛む。


今も昔も変わらない。彼はそう言って私を包み込むように抱き締めた。

その言葉通り、蘭くんから感じる温もりは記憶に残るそれと一致していて、また思い出が蘇る。


まだ子供だったあの頃、たった10数年しか生きていないくせに、この人しかいないって思わせるほどに愛していた。

他に何もいらないくらい、蘭くんに夢中だった。


あの頃の私は、蘭くんを失ったらきっと生きていけないって思い込んでいた。

だけど、今日までちゃんと生きてこれた。


辛かった日々、苦しかった日々。

涙に濡れ、消えてしまいたい夜を何度も過ごした。それでも、蘭くんが私の前に現れることは一度もなかった。



「A、愛してる。」



耳を擽る優しい声色。

どうして、そんな簡単に愛の言葉を囁くの。


12年と言う長い時間の中で、私の中から蘭くんが消え去ることは一度もなかった。

それでも必死に忘れようと努力したし、いつか迎えに来てくれるかもしれないと言う夢は捨てて生きてきたのに。


どうして、そんな簡単に私の中に入ってくるの。

12年前のことも、昨日のことも。

何もかもなかったかのように私の隣に立てるのは、どうしてなの。



「蘭くん…私は…、」

「俺を否定する言葉はあんまり聞きたくねえかも。」



体を離し私を見つめる蘭くんは悲しそうに笑っていて、また胸が締め付けられる。

遠い記憶に残る蘭くんはいつだって薄く微笑んでいたり、意地の悪そうな笑みを浮かべていたのに。


そんな弱々しい顔も出来るなんて、知らなかった。



「否定なんて、してないでしょ…。」

「愛してるって言ってくんねえの?」



その言葉を囁くのは簡単そうに見えてとても難しい。


また会えて嬉しかった。抱き締められた時、愛していると言われた時、本当に嬉しかった。

私は今も、蘭くんが好きなんだと気付かされた。

目の前にいる大人になった蘭くんが、例え犯罪者になっていたとしても。


愛してる、そう言えない理由はたった一つだけ。

その言葉を使ってしまったら、空白の12年間をなかったことにしてしまいそうだから。


何度も愛してると言ったのに、どうして私を置いて出て行ってしまったの。


心を許しても、また突然私の前から消えてしまったら。

そうしたら今度こそ死んでしまいそうだと、本能が叫んでいる。

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れん(プロフ) - まゆさん» まゆさま、コメントありがとうございます!お褒めの言葉、とても嬉しく思います!「一生幸せ」も読んでくださってありがとうございます☺️全然系統が違うのに一気読みしていただけて嬉しいです!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります✨ (3月18日 19時) (レス) @page23 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 初コメ失礼致します。お話が面白くメチャクチャ引き込まれてしまい、気づいたら一気に読んでしまいました!あと実は、れん様の他の蘭君のお話しも一気に読ませていただきました!どれも最高に良かったです!!更新頑張ってくださいね。応援しています。 (3月18日 8時) (レス) @page23 id: e4a4033c2e (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - とわさん» とわさま、コメントありがとうございます!沢山の蘭くんの小説の中からこちらを見つけてくださって嬉しい限りです!貴重なお時間を使って読んでいただいている分、面白かったと思ってもらえるようなお話に出来るよう頑張ります☺️ (3月16日 1時) (レス) @page21 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
とわ - 蘭くんの小説探してたらみつけたんで読ませていただいてます!めっちゃいいっすね…まじ好きな感じできてて… これからも読ませていただきます!応援してます!頑張ってください! (3月15日 3時) (レス) @page21 id: 8407209a34 (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - kizunaさん» kizunaさま、コメントありがとうございます!こちらのお話にも遊びに来てくださって本当に嬉しいです☺️更新頑張りますので、またお暇な時に読んでいただけたら幸いです…! (2月23日 21時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:れん | 作成日時:2024年2月23日 0時

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