検索窓
今日:112 hit、昨日:106 hit、合計:15,488 hit

11 ページ11

何もない、誰もいない、何も見えない真っ暗な闇の中をひたすらに走っている私がいた。

時折、私を呼ぶ声が聞こえる。どこからかは分からない、だけどその声には聞き覚えがあった。


優しく撫でるような心地の良い声に、どこだと姿を探しても見つからない。

その声が遠くなるのを感じて、焦った私が手を伸ばす。

宙を切った手は何も掴めない。


それはまるで、あの日何も言わずに消えてしまった面影を探している私を映しているみたいだった。



「ッ!…、…蘭くん…、」



切羽詰まった自分の声に飛び起きて、深呼吸を繰り返す。

夢を見ていたのだと理解するのにそう時間は掛からなかった。


遮光カーテンの隙間から差し込む光に、まだ日中なのだとぼんやりとした頭で考える。

そうして気付く。会社に行かなければ。

スマホがないとこんなにも不便なのだと、痛い程知ることとなって焦った。


きっと何十件も連絡が来ているだろう。だけど壊れてしまったそれでは、連絡を受け取ることが出来ない。


ああ、クビかな。無断欠勤だなんて、社会人失格だ。

どうすることも出来ず、ベッドの上で項垂れる。


見覚えのない大きなベッドに、真っ白で肌触りの良い寝具。

白い壁には何もない。大きな白いカーテンの外が気になって、ゆっくりとベッドから出た。


足の裏が痛い。昨日の夜のせいだ。

やはり夢ではなかったことに深い溜息を吐いて、カーテンをそっと開ける。

見慣れない景色にここがどこなのか分からずに困惑する。


だけどどこか、遠い昔の記憶を蘇らせるような、不思議な感覚がした。



「起きた?」



ドアが開く音と、背に掛かる低くて優しい穏やかな声。

何も言わない私の横へ蘭くんが歩いてくる。



「体調悪い?」

「…平気…。でも、少しだけぼんやりする。」



ごめんな。

彼は私の頭を撫で、抱き締めてそう言った。


地上から高く離れたここから見る景色はきっと、限られた人間しか目に映すことが出来ないのだろう。


13年と半年前、付き合い始めてすぐくらいの頃。

六本木に住んでいる蘭くんのマンションへ遊びに行ったことがある。

その時と同じくらいか、もっと上か。

タワーマンションの上階から眺めた景色は今でもよく覚えている。とても、綺麗だったから。



「夜景がよく見えそうだね…。」

「夜になったら一緒に眺めような。」



もう仕事に戻ることは出来ないと諦めて、現実から逃げたい自分がいた。

12 ◆→←10 ◆



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (49 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
195人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

れん(プロフ) - まゆさん» まゆさま、コメントありがとうございます!お褒めの言葉、とても嬉しく思います!「一生幸せ」も読んでくださってありがとうございます☺️全然系統が違うのに一気読みしていただけて嬉しいです!これからも楽しんでいただけるよう頑張ります✨ (3月18日 19時) (レス) @page23 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 初コメ失礼致します。お話が面白くメチャクチャ引き込まれてしまい、気づいたら一気に読んでしまいました!あと実は、れん様の他の蘭君のお話しも一気に読ませていただきました!どれも最高に良かったです!!更新頑張ってくださいね。応援しています。 (3月18日 8時) (レス) @page23 id: e4a4033c2e (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - とわさん» とわさま、コメントありがとうございます!沢山の蘭くんの小説の中からこちらを見つけてくださって嬉しい限りです!貴重なお時間を使って読んでいただいている分、面白かったと思ってもらえるようなお話に出来るよう頑張ります☺️ (3月16日 1時) (レス) @page21 id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
とわ - 蘭くんの小説探してたらみつけたんで読ませていただいてます!めっちゃいいっすね…まじ好きな感じできてて… これからも読ませていただきます!応援してます!頑張ってください! (3月15日 3時) (レス) @page21 id: 8407209a34 (このIDを非表示/違反報告)
れん(プロフ) - kizunaさん» kizunaさま、コメントありがとうございます!こちらのお話にも遊びに来てくださって本当に嬉しいです☺️更新頑張りますので、またお暇な時に読んでいただけたら幸いです…! (2月23日 21時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:れん | 作成日時:2024年2月23日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。