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街灯や看板灯で光り輝く夜の街に変わった頃、六本木へ移動して荷物を置きにマンションへ戻る。
下から建物を見上げるAの目はいつもより少しだけ大きく開かれていた。
「竜くん、ここに住んでるの?」
「そうだけど。何で?」
「タワマンってやつだよね。竜くんと蘭さんってお金持ちのお坊ちゃまなの…?」
「どう考えても坊ちゃんではないだろ。」
風貌も、してきたことも、とてもその呼び方が似合う人間ではない。
これにはいろいろと事情があるのだと、いつか話そうと思っている過去を振り返る。
緊張する、そう漏らすAに大丈夫だからと手を引いて部屋のドアにカードキーを翳した。
「ただいま。」
返事がない代わりにリビングから駆けてくる足音。
「お帰りなさい。Aちゃーん!」
「葵…!」
俺をそっちのけで笑い合いながら熱い抱擁を交わす彼女達。
その後ろからゆっくりと姿を見せる兄ちゃんの目も細く、口角が上がっていた。
「Aちゃん久しぶりー。」
「こんばんは。お邪魔します。」
「どうぞどうぞ!上がって!」
くいくいとAの腕を引く葵ちゃんは本当に嬉しそうで微笑ましい。
Aの視線が俺とかち合って、ふっと笑って頷けば彼女はリビングへと連れて行かれた。
「嫁同士がイチャイチャしてんの面白ぇー♡」
「イチャイチャ…なのか…?」
抱き締め合ってたのだからそうだろうと、兄ちゃんは言う。
あれは仲の良い女子特有の挨拶だろ、そう思ったけれど口にはしない。
「お前もいい顔してんじゃん。」
「デート楽しかったわ。いいな、こういうのって。」
普段は俺のことを揶揄ったり、面倒事を押し付けてくる。
そんな兄ちゃんが微笑んで俺の頭にぽんと手を置いた。
ガキ扱いするなよとむっとすれば、そんなんじゃないと兄ちゃんは言った。
「お前にもこの気持ちが分かるようになって、よかったってこと。」
「…まあ、うん…ありがと。」
たまには素直になるのも悪くない、か。
心の底から大事にしたい、大好きな彼女がいるっていいな。
どんなに楽しい遊びを覚えても、喧嘩が強くて慕われても、この気持ちを知らなければきっと何かが物足りないまま生きていた。
そんな気がする。
「俺、あいつのこと絶対幸せにする。」
「せいぜいフラれないように頑張れよー?」
「クソッ…!」
やっぱり兄ちゃんは兄ちゃんなのだと、嫌味を舌打ちで返した。
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れん(プロフ) - kizunaさん» kizunaさま、コメントありがとうございます!こちらにも遊びに来ていただけて嬉しいです!好みだなんて勿体無いお言葉…!更新の励みになります😭また遊びにいらしてくださいませ! (2月25日 23時) (レス) id: 160e1714c7 (このIDを非表示/違反報告)
kizuna(プロフ) - 本当に作者様の作るお話が凄く好みで最高です!これからも頑張って下さい! (2月25日 19時) (レス) @page31 id: 0b38a899d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れん | 作成日時:2024年1月30日 21時