手のひらの上でサンバを踊るな【あんスタ】

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気を使ってくれたらしい上司に空中庭園に行くように言われ、あんずは上司に心の底から感謝した。

だって、あのままあの場所にいたら自分はきっと泣いていたから。自分がポーカーフェイスで良かったと今ほど思ったことはない。



「まだまだだなぁ、私……」



あの男が放った“星見をTrickstarの専属プロデューサーに”という言葉。

あの言葉に自分があれほど恐怖心を感じるなんて知らなかった。
後輩のことは大好きだし、その手腕も尊敬している。けど、Trickstarのプロデューサーは自分でありたかった。


前の学校を追われるようにして夢ノ咲にやって来た、プロデューサーとしてあまりにも未熟だった自分。そんな自分に一番最初に与えられた、いることを許されたあの場所。
そこは例え大好きな後輩にも譲れるものではないのだ。


確かに星見は凄いから、いつかそんな未来が来るかもしれない。けど、それでも……


それ以上考えると心の中がどす黒い感情でいっぱいになりそうで、あんずは慌てて頭を振る。


「こんなこと思ってたらスバルくん達にも笑われちゃうよね、星見ちゃんにも……」


そう呟いてから違和感に気づく。
“星見”ちゃん？
そういえば、彼女の名前は何だ？


「(いやいや、どこかで名前を聞いたはず。その機会はいくらでもあったはず)」


そう記憶の中を探っても、どうしても思い出せない。それどころか、自分は彼女の趣味や誕生日すら知らないことに気づく。
当たり前だ。だって、自分は彼女について本人に聞いたことも調べたこともないのだから。


「……うそ。嘘、嘘、嘘嘘嘘でしょ……？！」


可愛い後輩だと、友達になりたいと言っておきながら。
知ろうとすらしなかった。彼女の名前も、どんな子なのかすらなにも！

それどころかその才覚に嫉妬している自分にこれ以上ないほど腹が立つ。
八つ当たりのように壁に思いっきり拳を叩きつければ、思った以上の痛みに涙が出そうで思わずしゃがみこんだ。














「……だいぶ深刻みたいだなぁ」


嫉妬と同じ目をした男が木陰からこちらを眺めていることにも気づかずに。

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