すばらしいであい【短編集】

S　西田明央 ページ14

落ち込んでても仕方ない。
だって落ち込んでることで生まれるものに、ポジティブなものなんてないと思ってるから。
時間だってもったいないし。
そんな暇があったらもっとやるべきことがある。
練習練習練習、練習に次ぐ練習。
ひらすら、走って打って投げて。
それ以外に上がって行く方法は、俺にはない。

「……え、ねえ」
「ああ、ごめん。どしたん？」
「ごはん、冷めるよ」
考え込んでいると、不安そうな顔でこっちを見つめるA。
今年から同棲を始めたっていうのに、不甲斐ない成績しか残せてないから一層必死になってるってところはある。
カッコイイとこ見せたいとかそういうのじゃないけど、安心させたい。
っていうのに、なあ。
「今日もお疲れ様」
なんて笑って、ビールを注いでくれる。
Aからは、あまり野球の話は出てこない。
気を遣われてるわけじゃなくて、かなり前、付き合い出した頃から、ずっと。
もちろん、嬉しいことがあれば一緒に喜んでくれるし、成績があまりに振るわない時は目一杯応援してくれる。
それでも普段、静かに見守ってくれるのはきっと、自分を信じてくれてるから、なんだろう。
「なあ、A」
「どうしたの？」
「……今日のごはん、めっちゃうまい」
「急だなぁ」
「ほんまにうまいんやもん」
深刻な顔して言うから何事かと思ったー、なんてまた笑ってくれる。
……俺がこんなによく出来たAといて、いいのか、なんて一瞬思う。
でもその度に、そんなこと考えてても仕方ないと思う。
だって俺は、Aが好きなんだから。
そんな暇があったらもっとやるべきことがあるんだ。
Aのためにも、俺にはやらないといけないことが沢山あって。

「俺、絶対一軍上がるから」
急な俺の言葉に少し面食らった様子のA。
それでもすぐに、優しく俺を見つめて微笑む。
「うん、信じてる」
「正捕手になる」
「うん、うん……！」

Aがいる限り、何だってできるような気がするから。

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