虹色と雲Ｒ (ページ3)

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「何か悲しいことでもあった？」

　初めましての人に言うことでもない。
　でも、私のこと何も知らないから。
　だからこそ、何も包み隠さず言えるかもしれない。

　そう思った私は、ぽつりぽつりと
　たどたどしく今まであったことを話した。

　彼は急に語り始めた私に引くことなく
　うんうん、それで？と
　適度な相槌を打ちながら
　根気よく付き合ってくれた。

　夢が見つからないこと。
　そのせいで焦っていること。
　親と喧嘩したこと。
　携帯すら持たず家を飛び出したこと。

　ヴァイオリンが、大切なこと。

「無くてもいいんじゃない？」

「え？」

「夢」

「……でも、皆あるし」

「ある人はあるよ。でも、だからって無い人が悪いって訳でもないでしょ」

「…………」

「夢は無理やり作るものじゃないよ。今は無くても、いつの間にか出来てたりするって」

「……そう、ですかね」

「んー。じゃあさ、とりあえず夢を見つけるのが夢、ってどう？」

「夢を見つけるのが夢？」

「そうそう。やりたいこととかなりたいものとかを見つけるのが将来の夢」

　よくない？と笑う安井さん。

　なるほど。考えたこともなかった。
　悩みが無いのが悩み、みたいな禅問答みがあるけど
　でも、それもいいかもしれない。

　いっぱい泣いて(無自覚だったけど)
　いっぱい話したら、何だかスッキリしてきた。

　それを感じ取ったのか
　帰る？と首を傾げるので
　こくりと頷いた。

「家どこ？大体でいいから」

　少しだけ答えに迷ったけど
　住所を教える訳じゃないし、と
　ざっくりとした場所を伝えた。

「そんなとこから来たの？時間も時間だし、タクシーで帰りな。お金あげるから」

「悪いからいいです」

「いいから。俺が心配なの。家まで付いて来られたくないでしょ？」

「……」

「嘘嘘。冗談だから」

　じとり、とした目で見ると
　けらけらと安井さんは笑った。

　そして、鞄の中から財布を取り出すと
　一万円札をこちらに差し出してくる。
　あまりの金額の大きさに戸惑っていると
　空いた距離を一気に詰めて、
　制服の胸ポケットにお金を差し込んだ。

　強引だな、この人……。
　確かに両手はヴァイオリンと弓で塞がってるけど……。

「余ったらお小遣いにしな。でも親御さんには言わないこと。見知らぬ男にお金貰ったなんて聞いたら心配しちゃうからね。近くの公園で時間潰してたとか友達の家行ってたって嘘吐ける？」

　それくらいならまあ、と頷いた。