虹色と雲Ｒ (ページ2)

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「綺麗だね」

　思いもよらない声に、思わず弓を引く手が止まった。

　声がした方に視線を向けると
　そこには小柄な男の人が立っていた。

　肩部分が濡れていて、
　髪の先に雫が垂れている。

　ああ、雨が降ってるんだなぁ。

　なんて他人事のように思いながら、
　弓を下ろした。

「ありがとうございます」

　誰かわからない。
　良い人かも、悪い人かもわからない。

　でも、褒めてくれたから。
　私の大事な宝物を褒めてくれたから。

　ぺこり、と頭を下げて
　もう関わらないようにしようと
　気にせず弾き始める。けど。

「………………」

「……あの、何ですか」

　その人はそこから動く気配は無く、
　ずっとこちらを見て来る。

　最初は無視しようと思ったけど
　さすがに居心地が悪くて、
　思わず声を掛けてしまったら
　こちらが警戒しているのが伝わったのか
　慌てて謝ってきた。

「あの、俺安井謙太郎って言うんだけど！全然怪しい奴とかじゃなくて！」

「………………」

「ほら！これ！俺！」

　何やら携帯を操作し始めて
　画面を見せて来るので、
　ひとまず見てみると。

「……ジャニーズ、ジュニア……」

「そう！俺ジャニーズ！」

　ジュニアだけど！と
　色々と検索したらしい画像を見せてくる。

　ジャニーズだろうがジュニアだろうが
　何の仕事をしてても
　怪しいことに変わりはないけれど、
　彼なりに自分の潔白を証明しようとしてくれているらしい。

　芸能人だから下手なことはしない、と
　伝えたいのかな。
　正直あんまり良いイメージはない。

　でも、褒めてくれたし。
　私じゃなくて、ヴァイオリンを。

　だから。
　だから、ちょっとだけ。

　私の警戒が緩んだのが伝わったのか
　彼は仕事帰りだったこと、急な雨に降られたこと、
　たまたまこのアーケードに逃げ込んだことを教えてくれた。

「大変でしたね」

「、君の方が大変そうだけど」

　私？

　一瞬何のことかわからなくて首を傾げたら
　頬を伝う感触に気付いた。

　あ、そっか。
　泣いてるのか、私。

　恥ずかしいことに全く気付いていなかった。
　どれだけ夢中になっていたんだろう。

　誤魔化すように笑うと、
　その人、改め安井さんは同じように笑い返してくれた。