シェルターの前で 【守】【荒川瑠架】 ページ20
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「……行きますよ」
「あ、ちょっと待て」
シェルターへ足を向けた蝶ちゃんを引き止める。
何事かと振り返った蝶ちゃんを前に、アタシはジャンパーのポケットから差し出したあるものを渡した。
「マッチ、ですか?」
「ああ。蝶ちゃんの能力的に持ってた方が良いと思って。明かりがあった方が何かと便利だろ?」
どうしたら役に立てるかって、一晩寝ずに考えたんだぜ?
そう言うと、蝶ちゃんは呆れたように目を見開いてから「ありがとう」と小さく言った。
「いざとなったら火事を起こそう。その混乱に乗じて逃げるんだ」
蝶ちゃんにとってだけじゃない。
マッチという武器は、アタシにとっても切り札になる。
空気をグッと濃くすれば、マッチの小さな灯は一瞬で大きな炎となり、すべてを飲み込むだろう。
そうなったらアタシは蝶ちゃんとミナトを抱えて飛んで、天井を突っ切る。
それなら火事に巻き込まれる心配はない。
もちろん懸念はある。
炎でハサミ女の出した糸が切れてしまったらとんでもないことになるだろう。
でも、アイツは昨日、蝶ちゃんの近くに来て、その右腕から出る糸を結んだ。
ミナトの糸を切ったときも、アイツはミナトのすぐ近くにいた。
ハサミ女の“手の届く範囲に居なければ”糸を切られることはない。
近寄らなければ大丈夫なんじゃないかと、アタシは推理する。
そこまで考えて、ふぅっと一つ息を吐いた。
大丈夫。問題はない。自信を持て。
そう、とくんとくんと速まる心臓に言い聞かせる。
もしかしたら、レボディショナルの連中から死人が出るかもしれない。
でも仕方がない。
仲間のためには、敵に情けをかけてはいけないのだから___
遠くの空から太陽が顔を出し、辺りがほのかに明るみ始める。
「では、行きましょうか」
「おう」
蝶ちゃんの声に短く返事をしてから、アタシたちはシェルターの中へと踏み込んだ。
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白 - 更新しました! (2020年3月1日 18時) (レス) id: a0941ce1f9 (このIDを非表示/違反報告)
白 - お久しぶりです。更新しまーす! (2020年3月1日 17時) (レス) id: a0941ce1f9 (このIDを非表示/違反報告)
しじみごはん(プロフ) - 更新しましたーー!!! (2020年2月23日 11時) (レス) id: a2f3698a22 (このIDを非表示/違反報告)
しじみごはん(プロフ) - 更新します〜〜 (2020年2月23日 10時) (レス) id: a2f3698a22 (このIDを非表示/違反報告)
星蝶 - 更新しました! (2020年2月11日 22時) (レス) id: 6888f46f20 (このIDを非表示/違反報告)
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