Prisonerworld【小説】 (ページ23)

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引き分け【攻】【長門奏】ページ23

「…ｯ…」

声帯を切られ、爆発で意識が飛びそうになったが、意識が切れない様に糸を繋いでまだ辛うじて意識は残っていて、痛みで限界を叫ぶ両の脚を酷使して、その場に私は立ち続けていた。
首は動かせそうにないので、目だけで周りを把握する。

…やはり、湊さんは連れていかれてしまった様だ。
爆発でぐしゃぐしゃになった部屋には、私と絢さんと、まだ距離が遠くて、吹っ飛んだだけのレボディショナルの隊員さんが居た。
私の近くに居て、爆発に近かった絢さんは思ったより重症だった。治療は出来ないが、能力で応急処置位は出来る。
ほぼ倒れこむ様な形で膝をつき、倒れている絢さんの糸を握る。

しゅるしゅる、しゅるしゅると私の手によって結ばれていく糸を見ながら、まだ働く気力が残ってるらしい脳で、思考を張り巡らせる。

一つ、湊さんは記憶をしっかり繋げられるだろうか。糸の綻び自体は小さなものにしたから、最初こそ不安定なものの、最後にはしっかり戻る様にしたが、まぁ、そこの技量はガーディアの人達に掛かっているので、心配はいらない。湊さんが思い出せなくてレボディショナルに助けを求めて来たりなんてしたら、その時は笑うしかないのだけれど。

二つ、個人的にはコレが一番気掛かりだ。副隊長様である、夕凪蝶葉。彼女が最後、私に向けて残した言葉だ。
＿奏…貴女はなぜここに来てしまったの…
頭にこびりついて離れないそんな言葉が、私に疑問をもたらす。
なぜここに来たか。
そんなの知らない。知る訳がない。
私に箱庭に来る以前の記憶など無いのだから。
まるで古い友達に話しかけるかの様な優しい声色が頭に過ぎる。
彼女と私は、箱庭に来る前面識があったのだろうか。
…まぁ、それを考えたところで、此処に来る以前の私と、今の私は別実同然なので考えても無駄なだけなのだけれど。
……そういえば、声帯を切られてただで帰すものか、と言わんばかりに彼女の意識の糸を切ったが、結局湊さんとモグラさんと副隊長様はみんな居ないので、モグラさんは二人を抱えて逃げたのだろうか。体力使っただろうなぁ、可哀想に。

糸をしっかりと繋ぎ直した絢さんの体を見てから、私の糸も繋ぎ直そうとしてやめた。
怠い、眠たい。疲れた。そんな考えが頭を支配して、一つの結末に行き着く

……死んで、戻ったら良いか。
正直これは最終手段でしかないのだが、まぁ大丈夫だと思いたい。

…今回は、引き分けだろうか。
そんな事を考えて、私は自分の命の糸を引きちぎった。