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「本当に俺は獲るのが楽しいんで。最近獲り過ぎて身内も貰ってくれないんで、Aさんが貰ってくれると助かります」
俺のその言葉にAさんも漸くいつもの笑顔を浮かべてくれた。
「そうなんですね、じゃあ遠慮なく」
ぬいぐるみをぎゅっと抱き締めるAさんが眩しくて、照れ臭くなった俺は視線を花々に向けた。
するといつも空いている一角に置かれた見事に咲き誇る白い花が目に入った。
「あれって…」
「ああ、蝴蝶蘭ですか?お祝い用に入荷したんです」
花を指差して聞けばAさんはスラスラと答えてくれた。
大輪の凛とした白い胡蝶蘭は花々が置かれている店の中でも一際存在感を放っていて。
「あいつみたいだな…」
思わず呟いた俺にAさんが首を傾げる。
「あ、いや、メン…じゃなくて同僚にめちゃめちゃ目立つ子がいて、あの花をみたらつい思い出して」
説明のような言い訳のような言葉にAさんは少しだけ目を細めた。
「…胡蝶蘭みたいならとても美人な方なんでしょうね」
美人…まあ、身内贔屓を除いてもラウールはめちゃめちゃ美形だわ、うん。
「ですね、昔からずっと可愛いし、最近は大人っぽさも出てきたし」
半ば息子みたいに見守って来たラウールが褒められた気がして自然と笑みが浮かぶ。
反面、Aさんの顔が少しずつ暗くなって行くのに俺は全く気付かずにいた。
「その方が大事、なんですね」
「まあ…直接は余り言わないですけどね。大事な子です」
「そう…なんですか」
珍しく歯切れの悪い返事にAさんの方を向いたけど、Aさんは顔を伏せていて表情が分からない。
「Aさ…」
俺が声を掛けようとした時、子連れの女性が店に入って来た。
「いらっしゃいませ」
Aさんは顔を上げると俺を見る事無く女性に向かって微笑んでいた。
「あちらのお客様が先ですので、少々お待ちください」
「あ、俺はいいんでどうぞ」
女性に対応する姿に声を掛けるタイミングを失った俺は、花を買うのを止めてAさんに断りを入れた。
「あ、あの…」
「邪魔してすみません、花はまた今度にしますね」
何か言いたげなAさんに接客を続けるよう促すと、そのまま店を後にした。
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作者名:氷那 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/HAK/
作成日時:2023年1月11日 2時