▽天秤 ページ48
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「ごめんなさい」そう伝えるだけでしんどくて、重くて、苦しくて、胸が痛い。
逃げ出した廊下の隅っこでしゃがみこんで一人で泣いた。この涙は誰にも知られちゃいけない気がした。
いつからだろう。はれたんの気持ちに気が付いて、でも必死に気付かないフリして現状維持でいようとした。それでも自分の失恋を痛感したとき、必死に縋ってた自分の苦しさに気付いて、このままじゃいられないと思った。
福本「ひとりで泣くなって、いっつも言うてるやん」
どうしてこういうときに来るのかな。今だけは来ちゃダメでしょ。
「来んなや、あほぉ、」
福本「ひどい言い草やな」
はれたんは最後まで優しかった。何も言えない私に代わって全部言ってくれた。言わせてくれた。
福本「俺の気持ち忘れてええから。今は前みたいに俺を頼って」
大晴の名前を出したはれたんは一番苦しそうな顔をしてた。
私の背中を撫でる大晴。いつもより少し優しい不器用な手つき。
多分ね、この人だけは切り離せない。この人が隣にいない未来なんて想像できないの。
大晴が隣にいなきゃ嫌だと思うこの感情は、家族愛で、ずっと培ってきた友情みたいなもの。でもはれたんはきっとそれさえ嫌なんだ。だからあえてあんな言い方をしたんだって、いくら鈍感な私だって分かるよ。
「はれたんに、ごめんねって、言ったの」
福本「そうか」
「はれたんとね、付き合ったらすごく幸せになれると思う。大切にしてくれるって分かる。けど、選べなかった」
福本「お前は宏志朗くんが好きなんやからしゃあないやん」
そう。宏志朗くんが、好き。
すごく好き。
「もう諦めたよ」
でもね、私フラれたの。
好きって、それさえ言わせてもらえないと思ってた。でもね、宏志朗くんはごめんねって言ったの。宏志朗くんもやっぱり優しかったの。希望なんて1ミリも残さずに私を置いてった。それが痛くて優しくて痛かった。
それにAさん相手なんて勝てるわけないじゃない。何一つ、あの人に勝るものが見つからない。
福本「諦めれんの?」
「だって諦めるしかないやん」
福本「ええの?それで?」
「もうええの」
福本「そうか」
大晴はそれ以上何も言わなくて、そっと私の手を握りしめてくれた。
会話は何一つ生まれなかったけど、その手のぬくもりに安心して、救われた。
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彩(プロフ) - 龍太くんとの絡みが見たいです! (2018年7月2日 20時) (レス) id: eee4c66918 (このIDを非表示/違反報告)
ふなめろん(プロフ) - 丈一郎くんとのお話がほとんど似た内容というか表現、言葉でTwitterに載せられてますがaoiさんではないですよね(>_<)?大丈夫ですか? (2017年6月28日 3時) (レス) id: 85cd6ef50d (このIDを非表示/違反報告)
ピンクジャスミン - お姉さんの名前が出ててビックリした。 (2017年3月31日 16時) (レス) id: e4efacc99d (このIDを非表示/違反報告)
ありさ(プロフ) - いつも楽しく読ませていただいています!毎回この通知がくるとワクワクします!私は主人公ちゃんがすきです!過去の話すごく気になります! (2017年2月4日 13時) (レス) id: 0de130e4a5 (このIDを非表示/違反報告)
らびっと(プロフ) - いつも楽しく読ませていただいてます!主人公ちゃんの過去の話?(少し触れていたやつ)を回想として見たいです! (2017年2月2日 9時) (レス) id: 20d02c6305 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:aoi | 作成日時:2016年12月28日 19時