【忍たま】利吉さんはいじわるだ。④【山田利吉】 (ページ30)

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利吉side

天井裏から見るAの姿。
何度も何度も、袖で口元を擦る。

見ていられなくて、
主人が部屋を出て行った後すぐに声を掛けた。

利吉「A、A」

手を止めて顔を上げたAは、
私に気付いた途端に

涙を浮かべて顔を歪ませる。

『利吉さ……』

そんなAの目の前に
しゅっ、と音もなく降り立つ。

利吉「しっ……遅くなってごめん」

Aはふるふると首を横に振る。

目に溜まった涙が今にもこぼれ落ちそうで
私は手ぬぐいを取り出して、
擦らないようにそっと涙を拭いた。

本当は今すぐに、今すぐに抱きしめたい。

Aを泣かせたあいつに、
Aに手を出したあいつに、
何か手を下してやりたいとさえ思うけれど。

利吉「大丈夫、何も言わないで。
　今は急いで外に出よう……よいしょっと」

『ひぃ！』

相変わらず軽いAを抱き抱えて、
天井裏へ一気に跳んだ。

　

主人「戻ったよー！……って、あれ？」

外に出て物陰に隠れて様子を伺っていると、
明りが灯されたり、慌ただしく使用人たちが
走り回る音がする。

戻ってきたらもぬけの殻なんだ。
そりゃぁ焦るか。

しかし、そんなの知ったこっちゃないし
私の仕事も済んだのでもう用はない。

そして、私のAは返してもらう。

利吉「さ、急いで帰ろう」

私とAは暗闇へ消えた。

◆◇

暫くお互いに口を開くことはなかったけれど、
ふいにAが呟いた。

『あ……ない』

利吉「ないって……何が？」

『小袖。せっかく利吉さんが
　褒めてくれた小袖なのに……』

がっかりと残念そうなA。

そういえば寝間着のままで、
ついでに言うと草履もなく裸足だ。

　

利吉「あれは勿論可愛かったけれど……
今度、一緒に仕立てに行くのはどう？」

そう笑い掛けると、
Aはにっこりと微笑む。

『嬉しい』

少し元気を取り戻した様子のAに
ほっと胸を撫でおろした。