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利吉side
くそ。
夕食の準備なんて、
こんなことしている場合じゃないのに。
Aが心配だ。
女中「さて、利子ちゃん。
旦那様のお部屋に運びましょう」
利吉「あ、はいっ……あれ、二人分ですか？」
女中「そうなのよ。急きょ、二人分が
必要になったと言われて……」
……Aがあのまま解放されるなんて
考えられないし、もしかすると。
嫌な予感、胸騒ぎを抱え、廊下を歩く。
女中「夕食をお持ちしました」
男「あぁ、入れ……旦那様、開けますよ」
部屋の前には側近の男が立っていた。
ゆっくりと障子が開けられ、中に足を踏み入れる。
部屋の中を見て、
思わず御膳をひっくり返すところだった。
にこにこと機嫌の良さそうな主人の隣に、
Aが座っていたのだから。
主人「美味そうな匂いだ。ねぇ？」
『えっ……はい。そうですね』
あぁ、くそ。
嫌な予感は外れることなく。
利吉「お待たせ致しました……失礼します」
『す、すみません。ありがとうございます』
引きつった笑顔……いや、もう泣き出しそうに、
何か言いたげな視線を私に向けるA。
少しでいい。
二人きりになる時間が欲しい。
利吉「……厠ですね、ご案内します」
『え……あ！はい、お願いします』
一瞬ぽかんとしたAだったけれど、
私の意図を察してくれたようだ。
立ち上がったAを連れて、部屋を出た。
利吉「中へ、」
厠へ案内するふりをして、
少し離れた誰も来ない部屋へ二人で入る。
『利吉さんっ……』
障子を閉めた瞬間に、Aの腕が首に巻き付いた。
震える身体を抱きしめて、背中をさする。
利吉「よしよし、怖かったね。……A、聞いて？」
Aを、そして自分を落ち着かせるように、
ゆっくりと話す。
利吉「すぐにここを出たいが、
今ふたりでいなくなると騒ぎになる。
必ず助けるから、大丈夫だから……
もう少しだけ、待っていてほしい」
『うん、うんっ』
目を潤ませて頷くAの頭を撫で、
柔らかな髪に口付けた。
Aは必ず、私が連れて帰る。
………あれ？
そういえば、小松田くんはどうなったのだろう。
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作者名：はな
| 作成日時：2021年6月5日 22時
