小悪魔な君と自称天使な私【桐嶋郁弥】

6 言葉 side:IKUYA（3） ページ45

保健室独特の薬のような匂いが鼻に広がる。

奥にあるベッドは二つ使われているようで、二つ分がカーテンで仕切られていた。

入ってすぐのところにある記入カードを確認すると、
『1』と窓際のベッド番号の欄にA先輩の名前が書かれていた。

そのままベッドの近くまで行って、
少しだけカーテンを開けて中を覗くと、
目を閉じているA先輩がベッドに横たわっていた。

「A先輩…」

名前を呼んでみても返事はなく、
代わりにすーすーと可愛らしい寝息が聞こえてきた。

起こさないようにそっとスペースに入り、
顔を見ると、A先輩はいつもより数段あどけない表情をしていた。

普段、周りの女子と比べてミステリアスに見えるA先輩は可愛いというよりは綺麗といった表情を浮かべているだけに、
いつもとのギャップに胸が高まった。

『桐嶋くん』

ふとA先輩の声が蘇り、思わず顔を綻ばせる。

ああ、好きだな…。

季節はすっかり夏へと変わり、部屋の温度に少しだけ肌に汗が滲んでくる。

これでは布団をかけているA先輩には暑いだろう、と窓を開けた。

それと同時に夏の爽やかな風が吹き、室内がふっと涼しくなった。

「ん…」

風に気づいたらしくA先輩が小さく声を上げ、
瞼を震わせた。

目を開けようとしているのを見て、その瞼を優しく手で覆った。

「まだ寝てていいよ」

そう言うと、ゆっくりとA先輩の体から力が抜けていき、瞼の震えが止まった。

眠りの世界に入っていくA先輩に優しく微笑んでそっと耳元で声を掛ける。

「…おやすみA先輩」

僕が言った言葉は多分、A先輩には届いていなかったと思う。

それでもなぜか達成感に満ち溢れ、そのまま高ぶる感情を抑えることなく、
A先輩の唇にそっとキスを落とした。

ゆっくり5秒ほどしてから重ねた唇を離して、そっと髪を撫でる。

「…早く落ちてください、A先輩」


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※絶対に聞こえないはずだった言葉は、たまたま隣のベッドにいた相模くんから後日、Aちゃんに伝わりました

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