小悪魔な君と自称天使な私【桐嶋郁弥】

噂話（5） ページ6

「手………握っててもらえませんか？」

桐嶋くんの体をすっぽり覆いこんだ毛布からボソボソと声がする。

「え、と…手？」

今聞いたことが幻想のように思えて何も言えなくなる。

そのまま少し経つと桐嶋くんは様子をうかがうようにそっと目元まで顔を出した。

その目は辛さかあるいは羞恥かで心なしか潤んでいるように見える。

頬や耳も赤く染まり、上目遣いで下から見上げてくる。

「…だめ…ですか？」

「うっ……。」

そんな可愛らしい顔で言われて断れる訳がない。

そんなことができる人は世界中に数える程だとすら思う。

「どう、ぞ……」

ゆっくりと右手を差しだすと優しく握られる。

やはり桐嶋くんの手は冷たくて私の熱が桐嶋くんに伝わっていくように感じる。

知らぬ間に緊張してしまっていたのか急に体の力が抜ける。

ふと桐嶋くんを見るとその目は私をとらえていたものの、すぐに反らされてしまう。

「小さい頃、兄貴にしてもらってたのに慣れちゃって…」

兄貴のせいだ、と少し恥ずかしそうに口を尖らせる姿はとても可愛らしくて思わず微笑んでしまう。

「今、子供っぽいって思いました？」

「や、お兄ちゃん子なんだなって」

今度はむぅと頬を膨らませる。

高2男子にしては少しあざとらしすぎる感じがするがこの子なら許せてしまう。

「弟っぽくて可愛い。」

本当に弟のような気分になってきてよしよしと頭を撫でていると、

「ん!?」

繫いでいた手を引っ張られた。

「桐嶋くんっ…!?」

抱きしめられていることに驚いて思わず声を上げてしまう。





「弟じゃなくて……男、だよ？」





桐嶋くんはそう言って美しく微笑んだ。

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