小悪魔な君と自称天使な私【桐嶋郁弥】

想い（5） ページ37

「…A先輩」

もうすっかり虜になってしまった彼の低音が
布越しに響く。

返事をしない私に痺れを切らしたのか、
カーテンの端を握る手が見える。

その手が動き出す前に私は慌てて言う。

「開けないで…話してもいい？」

臆病者の私には、
目を見て告白するなんていうことは絶対にできない。

ひーちゃんのために頑張ると決めたではないか、
と思うが面と向かって話すなんて私には無理だ。

「…わかりました」

少し間があって、彼の了承を示す声が聞こえた。

声から桐嶋くんのいる位置を推測し、
そこに顔を向けるようにベッドに座り直す。

急に呼び出してごめんね、
と前置きをしてから深く息を吐いた。

「桐嶋くん…」

心臓はばくばくと音を立てていて、今にも爆発してしまいそうだし、
声もいつもよりいくらか上擦ってしまっている。

それでも伝えたいこの想いを口にするしかないんだ。

「桐嶋くんが…好きです」

震える声でそう言って、
手をぎゅっと合わせて握る。

夕焼けを見て胸が高鳴ったのは、
彼の紅い瞳を思い出したから。

キーホルダーが彼女から貰ったものではないと知って、
ホッとしたのも彼女がいなくて安心したから。

『A先輩』

ふとした時に思い出すのは彼のことばかりで。

伝えられた安心感と返事への恐怖に、
薄く涙の膜が瞳を覆った。

でも、聞かなくてはならない。

私は、ひーちゃんみたいに優しくはなれない。

「桐嶋くん…、返事…欲しっ」

涙の滲む声色で
ようやく口に出した言葉は途中でかき消された。

「んぅっ…!?」

彼の唇によって。

あの日と同じ湿った柔らかいものが
私の唇に触れた。

私が言葉を言い終わる前に
すばやくカーテンを引いた彼は、
目を丸くする私にキスをしていた。

私が驚いている間にゆっくりと唇が離される。

「き、桐嶋くん…？」

ようやく出た声は困惑そのもので、戸惑いながら彼の名前を呼んだ私に、
彼は右頬のみ口角を上げて笑った。

「遅いよ、A先輩」

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更新サボってすいませんでした。
少し更新ペース遅れるかもです…すいません。

やっと、小悪魔郁弥くん、登場です…！
キュンキュンして貰えたら嬉しいです！

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