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「何でそんな可愛いかなぁ」
目も、鼻も、すっかり赤くなってしまっている仲村に、愛おしくて堪らないといった様子でAが笑いかけた。
「マジほんっとハズイ…」
観念したのか、手で覆うのを辞め、指を当てながら鼻を啜る。
口にした言葉の通り、恥ずかしそうに頬を赤らめ、瞳を伏せている。
「突然、さ」
仲村の手を離して、Aがポツリと話し始めた。
今までみたいなのが無くなったから、初めはいい加減飽きたんかなって思ったんだけど…
何か他の奴らに聞いたら違うっぽくて、でも私は今までのが良かったし、なんなら、もうちょっと近いくらいでいいし。
_だからね
再び、仲村の手を握った。
ほどけないよう、ほどかれないよう、指を絡めて。
「逃げないように、私のものにしようって、そう思ったんだよね」
その瞳は、表情ほど笑っていない。
ひどく冷たく、しかし、どこか熱い目をしていた。
「“逃げ切ったら勝ち”だなんて、随分と可愛いことしてくれんじゃんか。
お陰様で、Aちゃん本気になっちゃったよ。責任とってね。」
絡めてあった指に、更に力を込めた。
仲村の体に何やら冷たい物が這った。
本能が赤信号を出している。危険だと叫んでいる。
けれども彼は、彼女の事が好きで好きで堪らなかった。
愛しているのだ。
年下で、仕事では先輩で、自分より多種多様な経験を積み、すっかり年相応ではなくなってしまった可愛げのない人物。
何度も投げ掛けた愛の言葉や、何度も伝えた熱い想いも、全くと言っていいほど効果を見せず
ともに過ごした半年間と、たった1度の関係で繋いできた距離。
もういっそ諦めてしまおうと、そう思っていた。
「諦めてしまえたらどれほど楽だろう」
「いっそキッパリ振って欲しい」
などと。
使い古されたモノローグを胸に、年甲斐にも無く恋愛に前のめりになった数ヶ月。
伊瀬谷が行った1日のみのライブから、彼の決意は揺らいでいた。
もしかしたら、現在は既に諦めていられたかもしれない。けれど、諦められなかった。
見目麗しい同業者と仕事をしようが、自身を好いてくれるファンから想いを伝えられたり、体だけでもと関係を迫られようが、彼の脳裏から伊瀬谷が離れることは、決して無かった。
大好きな曲だと伊瀬谷が言った。
ライブのトリに持ってくるほどまでに、思い入れがあった。
最後に、自分に向けて指を指した。
彼の決意が揺らぐには、十分すぎる要因であった。
そろそろタイトル考えるのも嫌になってきた→←ある未来の話(番外編?)
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作者名:志賀有栖 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=sab
作成日時:2021年8月14日 1時