【無印】ジョーカーとルーラー (ページ9)

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「安くても多少アルコールがあった方がマシな気がする。」
ウェイターを呼び、水で口直しをしながらAが言った。

残りのシャンメリーを飲みながら
「イギリスって飲酒幾つからだ？」
と、不動が問う。

それに対しAは、あー…といって少し考えてから
「16。だけど、家族が同意している場合は家庭内でのみ5歳から飲酒可能。多分向こうのチームの人間はみんな飲んだことあるんじゃない？」
と答えた。
イギリスで初めて酒を飲んだのは、それこそ５歳の時のため、一瞬思い出せなかったことも無理はない。

それを聞くと不動は「じゃあ確実にわざとか。」とヒールのような表情で言い、Aは口元に弧を描きながら「わざとだろうね」と言った。

2人とも、(憶測ではあるが)こちらにのみ安いものを提供している。
という事実にはさほど興味はなく、その動機たる部分に対し、苛立ちを覚えた。

向こうの動機の推測は2人とも同じもので、同じであるが故にその仮説の裏付けが強く、ただの推測が苛立ちへと変化したのである。

「まだ選手の格好にいちゃもん付けないだけマシか」
そう呟いた矢先、Aの側に二つの影が近寄った。

「やはり、Ms.アリシマでしたか。お久しぶりです。」
白井スーツに身を包んだ、長い髪の男。イギリス代表、ナイツオブクィーンキャプテン、エドガーバルチナスである。
その脇には、恐らく彼に声を掛けられ、そのまま連れてこられたのであろう冬花の姿が見受けられた。

「…どちら様でしたっけ？」
Aが人当たりのよさそうな笑顔を浮かべながら言う。
エドガーは細やかに笑みを浮かべ、「相変わらずご冗談が上手い」と言った。

冗談などではなく、「忘れたいほど嫌っている」というのが事実である。
Aには、イギリスでの思い出はあまり無い。
パブリックスクールにて知り合った幾人かと毎日のようにバンド演奏をしていたことしか、彼女の記憶にはない。しかし、このエドガーという男に関しては別である。有島Aは嫌なことほど覚えており、また、自身にされたことも全て覚えている質の人間である。

エドガーと言葉を交わしたことは極めてすくないものの、その数すくない会話の中で、Aにとって彼は敵対生物として認識されたのであった。

エドガーが変わらずにこやかな表情で「あちらで少しお話でもしませんか？」と聞くと

「生憎と、ここを離れるなと監督から仰せつかっておりますので」
と、Aは突っぱねるようにして言った。