【無印】ジョーカーとルーラー (ページ8)

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慣れない高さのヒールで足元がグラつくマネージャーたちを支えながら、Aが階段を下りる。

煌びやかなドレスで身を包んだ年頃の少女をエスコートするのも、質のいいスーツを着こんだ年頃の少女だが、さながら舞踏会の王子のような気品のある着こなしをしており、マネージャー達も思わず胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。
Aは同性に恋愛対象として好かれる身のこなしをするため、勘違いしてしまう少女も少なくない。今回のもまた、例に漏れずそれである。

「…やっすい味」

ウェイターから差し出されたウェルカムドリンクを飲みながら、Aは眉をひそめて呟いた。

世間一般でノンアルコールシャンパンと呼ばれる、ノンアルコールスパークリングワイン。
この島が一体どこの国に属しているのか分からないため、法律もどこの国のものが適応されているのかも分からないが、イギリスで様々な酒の味を覚えたAにとって、イギリス側が用意したノンアルワインは、酷く安く味気のないものだと感じた。

恐らく日本代表が酒の味が分からないことを良いことに、日本の選手にのみ安いものを提供しているのであろう。
Aが匂いで確認した限りでは、ドリンクにシャンメリーも混ざっており、まるで『所詮は酒の味も分からない子供だろう』と侮辱されているようで、Aはイギリスの選手たちに心の中で壮大に中指を立てた。

「Aちゃんはやっぱスーツか。」

苛立っているAに、不動が背後から声をかけた。パーティーだと言うのに、相変わらずグラスを片手に1人で立っていた。

「あっきーなはやっぱり1人なんだね。」
先ほどの不動の言葉に、一部のみ変えて、同じようにして言い返した。

「俺には1人が似合ってるんだよ。」
「私がいたら2人だけどね。」
「うっせ。」

不動が持っていたグラスに口を付け、中身を2口分ほど飲み込むと、グラスから口を離し「…シャンメリーかよ」と眉をひそめながら言った。

不動のその様を愉快に感じたのか
「あっきーなはシャンメリーに当たったか。私はスパークリングワインだったよ、ノンアルだけど。」
と、機嫌が良さそうに言う。

「美味い？」
不動がAの持っているグラスを見ながら問いかける。
「いーや、安物だね。香りも特にしないし味も薄い。」
グラスに残っているノンアルのワインを飲み干してAが言った。