この夜を止めてよ Ryo.Yoshizawa

episode36 ページ36

『めちゃくちゃにして、壊して捨ててやろうかと思ってた。』

「…」

『でも話してるうちにAさん見てたらなんか俺見てるみたいで、やめた。』



…私も同じこと思った。
似た者同士なんだ、私たち

信じていた相手に嫌悪感を抱いて
それすらも愛していたのに裏切られて



「…似てるんだね、私たち。」


涙を流していた
そんなつもりないのに溢れてくる

溜めていたものが全部、全部


『…ギュッてして。』
「…やだ。」
『じゃあ俺がする』

ギュッ



『…俺、Aさんのことただの不倫相手って一度も思ったことないよ』



「私もだよ」





好きなんて言葉では表せられない


限られた時間の中で会う回数を重ねて
お互いの足りない部分を補い


知らず知らずに自分と相手を重ねていたんだ




「ねえ、何処か遠くに行きたい。」
『…そうだね。どこ行きたい？』




「温泉、行こうよ。」


『いいね。じゃあ明後日行かない？』




二人でいる時間


永遠なんてないことを

分かっていながらも



小さな幸せに縋り付いていた




『お風呂一緒に入る？』
「やだ、自分で入る」


愛してる



彼に言えない一言だった。







・





スースー…


頭と腰に腕を回したまま彼は眠っている

「…」


少しだけ空いている口

その隙間に思わず指を入れてしまった


何してるんだ、私は



『……眠れない？』


眠っていた彼が重い瞼を起こす
起こしてしまったか


「…明日、ちゃんと話してくる。」
『ん……え？一人で？』


寝ぼけていた彼が一気に目を開いた


「大丈夫、外で会うから」
『…何かあったら電話して？』
「うん」




彼の腕の中は世界一温かい

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