この夜を止めてよ Ryo.Yoshizawa

episode34 ページ34

…バタンッ




ギュッ…

「…吉沢君、」



彼の家に着くまでずっと手を握っていた

家に着くまで
ずっと二人とも無言だった



部屋に入った瞬間
彼は私を強く抱きしめた


抱きしめて、私の首に顔を埋めた



『ごめん、ごめん…』





罪を感じるように
彼は私に何度も謝ってくれた


…私だけじゃなかったんだ。


苦しんでいたのは私じゃなかったんだ



「…ねえ、お腹空いてるでしょ？」
『…』


コクンッと抱きついたまま頭を縦に振った
…本当可愛いなあ。



「作ろっか。ハンバーグ。」



こんな時に何言ってるのか分からない

だけどお腹空いてたら話すことも話せない。


『…うん。』



・



トントン…


玉ねぎをみじん切りにし、
吉沢君にはお肉の下ごしらえをしてもらっている


「…ハンバーグ、お母さんの味なんだ。」
『ハンバーグなの？』
「うん、実家に帰ったら必ず食べるの。何でか分からないけどね、焦げててもお店で食べるやつより好きで。」



決して裕福な暮らしではない
両親共働きで、食べ盛りな兄弟もいる

家も広くはない

だけど幸せだった。



あの広々としたマンションに一人でいる時よりも
ずっと幸せだった




『分かるよ。俺も母親のハンバーグ好き。』
「だよね？」
『なんかマザコンみたいじゃない？』


突然恥ずかしくなったのか口角を上げて笑う
お肉を捏ねてるから手で隠せないのが面白い


「子供は誰だってマザコンだよ。」


『…』


チュッ


隣から顔を覗き込むように私の頬にキスをした


『…幸せ。』


フフッと笑う彼

私もだよ



今この瞬間が
とても幸せだよ

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