この夜を止めてよ Ryo.Yoshizawa

episode16 ページ16

チュンチュン…



…目覚めると、口を開けたまま寝てる彼

向かい合って抱きしめられて寝ていた
…同じ匂いがする

同じシャンプーの匂いがして
まるで彼のものになれたかのように



錯覚してしまいそうだ



「…6時半…」


のしかかっていた彼の腕を押し退け、床に落ちていたTシャツを着直した


朝ごはん、作らなきゃ。




ガタンッ


…吉沢君、和食と洋食どっちがいいかな
お米も残ってるし食パンもある

んー…


よし。



ジューッ…


隆久さんは
いつも決まって和食だ

明太子味の卵焼き
味噌汁は必ず茄子が入ってないといけない

ご飯も炊きたてが好き

なのに何故漬物が嫌いなのか理解しがたいわ。

毎朝、それが当たり前で彼より早く起きる


この時間に起きるのが日常で
身体が慣れてしまった。


トントン…


『…良い匂いする』
「あ、ごめん。冷蔵庫のもの勝手に使った」

寝癖をつけたまま私の方に寄りかかってきた

『味噌汁も一から作ったの？』
「うん、多分余るだろうからお弁当にでも持って行って。」


…待て。待て待て
ただの不倫相手なのに図々しすぎやしないか？

しかも25歳の若い男が弁当に味噌汁なんてそれこそありえないでしょ


「い、要らなかったら捨ててくれて大丈夫。」

『何で。全部貰うよ』


本当に彼は優しい
あの人と比べて、本当に



・



「『いただきまーす』」


至って変わらない、いつもの朝食
吉沢君が若いこともあって少し多めに作った


『…なんか久々。味噌汁ちゃんと飲むの』
「意外と飲まないもんだもんね」


幸せそうに私の作ったおかずに箸を進めてくれる

『Aさん、あーん』
「いいよ自分のあるから」


『あーん』


…

『美味いね。』
「…うん、美味しい」



『Aさんがうちにいてくれたらいいのに』


ご飯を進めながら彼は言う
そんな事、言わないでよ


帰りたくなくなる


「…お弁当、余ったのでよかったら詰めておくから」
『本当に？』



…好きだ


この人と、ずっと一緒にいたいなんて
私は思う資格なんてないんだ


「…不倫する人たちって連絡先どうするんだろ」


キッチンでお弁当に朝の残り物を詰めている時
彼はずっと私の腰に手を回し後ろから抱きしめていた

『課長ってスマホ見る人？』
「どうだろ。そもそも興味無いから、私に」
『じゃあLINEにしよっか』


彼にスマホを渡すとササッと交換してくれた


…亮
新規登録された画面に胸が高鳴った


『これでいつでも会えるね。』

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