souko (ページ9)

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【OP：キッド】ゆめふえる① ページ9

「え、すごいねヒートって口から火が出るの？」

ただの甘ちゃんだと思っていた女は、俺の船に乗るなり数日でクルー全員と馴れ合うようになった。
逆に、俺のクルーがそこまで簡単に絆されるとは思っていなかったから、こればかりは予想外すぎる。
キラーを筆頭に最初こそ警戒する奴らもいたが、ひと月もすりゃ、まるでそこに居るのが当然のように振舞っていた。

魚人島を出て、無事に新世界に足を踏み入れた。

次の島か、その次か。
いつか分からねえがAがクルーじゃねえ限り、どこかしらで下船する。
...だってのに。

「テメェはなんなんだ」

高ぇラム酒にまで手を出そうとする手癖の悪ぃ腕を掴んで止めれば、なんてことねえ顔のまま俺を振り返る。
誰の酒だと思ってやがる。

「ただの一般人ですが？」
「そういう話じゃねえ。当たり前みてえに居座りやがって」
「あれ、そろそろ下船を希望？」
「は？そんな話は」

仕方ないな、と酒に伸びてた手を引っ込めて、俺の船には不釣り合いなシンプルすぎる服のシワを伸ばす。

「じゃあ次の島で降りようかな」

あっさり過ぎる態度に、何故か腹が立つ。
待てテメェ、ここまで散々世話焼いてやったのに、その呆気なさはなんだ。

「え？！A降りんのかよ？！」
「キッドさんが降りろって」
「頭ぁ！そんなあんまりだぜ！」

どこから聞きつけたのか、うるせえ声が飛び交う。
俺を責める言葉、Aを引き止める声。
あちこちで縦横無尽に発せられるそれが耳障りだった。

船の上で騒ぎまくるのはよくあることだ。
いつもとなんら変わりねえくせに、その中に俺を咎める言葉があるかないかの違いなのか。
理由はハッキリしねえが、いつもより短気になったのは確かだ。

傍にあった椅子を蹴っ飛ばせば、耳障りな声は途絶えるが、音に気づいたAの目線が俺を振り返って、その静かさにまた腹の底が熱くなる。

「やだなあ、物にあたっちゃダメだよ」

そしてガキでも諭すような口振りで、俺が蹴り倒した椅子を元に戻すA。

「降りるなってキッドさんが言うなら、降りないよ」

そういう事を言ってんじゃねえ。
テメーの態度が気に入らねえって話だ、そうだろ。

それなのに、俺が言えば止めるなんてセリフは、どうにも別の意味で焦らせる。

なんだ、クソ。
よく分からなくなってきた。

「次の島までまだ日はあるし、キッドさんが決めてよ」

決定権を俺に委ね、喧騒など何も無かったように居なくなるA。

なんなんだ、テメェは。