souko (ページ29)

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【OP：キッド】ゆめ…？⑩ ページ29

表皮は冷えきっているのに、体の奥底は熱を帯びている不思議な感覚に浮かされる。
洞窟の外から聞こえる雨音もずっと遠くにあるようで、そんな事よりすぐ目の前の男の僅かな息遣いの方が耳に響く。

指先の動きも、執拗に覗き込んでくる赤い瞳も、燃えるような熱量に逆上せそうだ。

「A」

普段は滅多に名前なんて呼ばないくせに。
腰に添えられる手つきも、もっと力任せのくせに。
掠れてしまう声で彼の名前を呼ぶ度に、どことなく嬉しそうに見えるのも。

全部、全部、このイレギュラーな環境に男と女2人で放り込まれたせいに違いない。
吊り橋効果ってやつよ、きっと。

Aの捜索が成果を見せるより先に、島の水没の方が元に戻り始めた。
クルーたちが簡易的に作った拠点の下に集まり、朝方からまた捜索範囲を拡げていた時。
小雨降る中、真っ先に俺がそれを見つけた。

マスクの穴から見えた光景に、俺は少し違和感を覚えたが。

俵担ぎとまでは言わないが、逃げねぇようにAを抱えてきたんだろう我らが船長。
いつも通りの光景なのに、Aがしおらしくキッドの肩に体を預けているからかもしれねぇ。

「キッド、見つけたのか」
「散々だったぜ。お陰で雨ん中野宿だ」

疲れたと愚痴るわりにはそんな様子も見せず、Aへ駆け寄るクルー達を鬱陶しそうにしている。

「預かろう。風邪でも引くかもしれねぇ」

いつまでも船長自らにクルーを抱えさせておく訳にもいくまい。
近くにいたヒートに目配せして、Aを船内の医務室へ運ばせようとすれば、僅かにだが、キッドが体でヒートの手を遮ったように見えた。

「このまま行くからいい。俺が戻ってくるまでにお前らは島の中央に転がってる雑魚共をここまで連れてこい」
「…敵がいたのか」
「敵にもなりゃしねぇクズ共だ」

昨日の雨の中、キッド1人で交戦したってのか。
すぐにそちらへ人数を手配すれば、その間にキッドはAを抱えたまま、さっさと船へと歩き出している。
慌てて船医がその後を追いかけていった。

「お頭、なんか機嫌良さそうじゃねえか？」

普段なら濡れたくないからと、(簡易的でも)屋根の下から好んで出ねえだろうに。
わざわざ船までAを抱えていく背中を不思議に思ったのは、俺だけじゃなかったらしい。

クルーなら誰しも、あれの機嫌の善し悪しが分かるだろうが、俺やワイヤーら古参メンバーは理由を察しちまったから、余計なことは言わねぇでおいた。

…ついに手を出したな、キッド。