souko (ページ26)

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【OP：キッド】ゆめ…？⑦ ページ26

「笑うな」

うるさい雨音と笑い声の中で、それら全ての音を消し去るぐらい力強く、そして静かに、地を這う声が後ろから聞こえた。

全員がそちらへ視線を投げる。
濡れて視界を邪魔する前髪の向こうに、私は燃える赤を見た。

「キッド…」
「いったい誰の了解を得て、そいつの夢を笑ってやがる？」

私の呼び掛けも関係なく、彼は着実に距離を詰めてくる。
その右手が磁気を帯びて、雨宿りしていた海賊たちから次々と武器を奪い始めた。

「なんだ？！武器が取り上げられていく？！」
「テメェあの最悪の世代の…！」
「ユースタス“キャプテン”キッドだ！」

手元を離れていくナイフや銃火器を抑えようと慌てる彼ら。
私に背中を向けるように立ったキッドは、右手に徐々に溜まっていく鉄の塊を振り上げた。

「雑魚が。俺のクルーの何が可笑しくて笑いやがった？」
「その女テメェのクルーだったのか？！」
「ハハハ、だったらなんだ？今からでも命乞いしてみるか？」

膨れ上がった鉄の塊を悠々と持ち上げている、キッドの逞しい腕。
濡れて髪が垂れても、ゴーグルで露になっている額にははっきりと青筋が見えて、反して凶悪な笑みを浮かべているのが余計に恐怖を煽った。

「ち、違う笑ってなんかいねえよ！」
「そうか？」

必死に首を振る彼らに、キッドは無情にも金属の腕を振り下ろした。

「俺にはしっかり聞こえたんだがな」

けたたましい金属音と男たちの悲鳴。
それをかき消さんとする豪雨。

私はただ呆然と、その場で座り込んでいた。

よく酒場で目にする地獄絵図と同じはずなのに、野外だからか、ものすごく荒々しく危険なものに思えて、1人しっかりと立っているキッドの背中が少し怖かった。
彼の強さはその首にかけられた金額から予想出来ていたはずだった。
でも、

「いつまでそうしてるつもりだ？さっさと動かねえとここも水没するぞ」

見下ろしてくる彼の赤い目は、さっきと段違いに落ち着いて見える。
声も低いところは変わらないのに、敵意がないせいか、むしろ頼もしく聞こえてしまって。

「…ありがとう」

私をバカにした奴らを退治してくれて。
夢を叶わないものだと嘲る人たちを一蹴してくれて。

道徳とかモラルとか、そんなものよりも感謝が先に出て、自分でも驚いた。
まさか感謝されるとは思ってなかったキッドもまた、少しだけ目を見開いた。
それもすぐ逸らされたけど。

「立てるなら歩け」

ぶっきらぼうな物言いも、今は無性に心地よかった。