souko (ページ3)

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【OP：キッド】ゆめかたる③ ページ3

海を渡りながらネタ集めをしてる。
ナガレの小説家なんて言えば聞こえはカッコイイけど、ようするにただのその日暮らしだ。
(そもそもまだ本を一冊も出したことないし)

ただ物語を編むのが好きで、旅行も好きだった。
生まれた時から親や家族という縛りもなかった。
だからこうなった。

使い古された万年筆と、ガサガサになった紙の束さえあれば、私はどこにでも行けた。
あとちょっとお酒さえあれば。

だからどこかに留まることも、誰かと繋がりを持つこともいままでとんとなかったんだけど。

「あれ、海賊王さん」

今日もまた別の酒場に入って、昨日の飲み足りなさをどうにかしようと思っていたら。
まさかのそこには出会って別れて一日くらいしか経ってない、あの赤髪の男がまた居たのだ。

昨日と変わらずカウンターに1人で座って、今度はビールのジョッキを煽る彼。
こういう奇跡に慣れてないせいもあって、思わず口をついて“海賊王”なんて単語を使ってしまったもんだから、結果は言わずもがな。

「誰が海賊王だって？」
「嬢ちゃんバカじゃねえのか」
「そんなの子供だましに決まってんだろ」

あとは昨日の夜の再現だ。
そこはまた地獄絵図と化して、赤い彼だけが何食わぬ顔で酒を煽る。

「なんかごめん」

失言さえなければ、2日も最悪な夜を過ごさずすんだだろうに。
申し訳なさから彼の酒代を置いて出ようとしたら「座れ」と命令口調が降ってきた。

「うん？」
「酒飲みに来たんだろ」
「そうだけど…マスターもノビてるし」
「自分で注ぎゃいいだろ」
「ああ、なるほどね」

まあそこに罪悪感を感じるなら海賊なんてやってらんないよね。
カウンターにお金を置いて、適当な酒瓶を1本貰う。
残念、ほんとはカクテル飲みたかったのに。

渋々ブランデーを持ってカウンターにつけば、また奇妙な時間が流れていく。
足元からの呻き声。
それ以外は静かな酒場。
この沈黙にはやはり耐え難くて、また質問攻めにでもしてやろうかとグラスを傾けた時、予想外にも彼の方が先に動いた。

「テメェ命知らずだな」

そんなまさか。
いつそんな評価がついたんだろう。

「命を粗末に扱ったことないよ」
「ハハ、だったらさっさとこんな場所離れてんだろ」
「海賊王さんが座れって言ったよね？」

引き止めておいてその言い草よ。
腑に落ちなくて言い返せば、今日は幾分機嫌が良さそうに、綺麗に紅を引いた唇が釣り上がる。

「海賊王か」

まるで噛み締めるように呟くのが印象的だった。