souko (ページ1)

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【OP：キッド】ゆめかたる① ページ1

「笑うな」

地を揺するような低い声が、酒場の賑やかな空間にやけに通った。
サウスブルーに浮かぶ島のひとつ。
その島の中に数ある酒場の一角。
偶然にもその場に居合わせただけの私は、お腹の底から震えるような感覚を覚えて、思わず同じカウンターに座るその男を不躾に見た。

水を打ったように静まり返った酒場の中で、唯一動きを見せた人物が声の主だと当たりをつける。

その人は、燃えるような赤が特徴的だった。

逆立てた赤髪。
鍛え抜かれた肉体を惜しみなく晒していて目のやり場に困るけど、パンクな出で立ちがやけに似合っていて、素直にカッコイイなんて思ってしまった。

「なんだ、テメェ？」
「よう坊ちゃん、さっきなんて言った？笑うなだ？」
「プッ」

青年になりたての印象を受ける赤い男に、すっかり酒が回った大人たちは遠慮なく絡んでいく。
何故男のことを笑うのか、話を聞いていなかった(この喧騒で他人の会話を聞いてる方がおかしいけど)私は、これ幸いと耳を傾けた。

「ダッハッハッハ！そりゃ笑うぜ！」
「なんだって？海賊王になる？ククク」
「プップップー！寝言は寝て言えバァーカ！」

ワンピースなんかあるわけねえだろ！

心底バカにするように、蔑んだ大人たちの目が、笑い声が、青年を囲んで捉えて離さない。
どうやらここに居るのは、夢も希望もないつまらない大人ばかりのようだった。
酒場のマスターでさえ、カウンターの向こう側で笑うのを噛み殺している。

耳から入る情報が胸焼けを起こしそうで、私はひとつ息を吐き出した。

その、本当に一瞬の出来事だった。

店内のフォークやナイフが、何かに操られるように、赤髪の男へと引き寄せられていく。
男の右腕に集まった鉄食器。
その光景が何を意味するか考える余裕もなく、今度はそれらが弾丸のように弾き飛ばされ、さっきまで笑っていた大人たちを穿いた。

顔や体、場合によっては喉に刺さって重症の人達が呻き転がるそこは、あっという間に地獄絵図だ。
その中で、自分が唯一無事であることに気付いて、また、カウンターの男を見る。

ちらり。

これまた炎のように赤い瞳と目が合った。
青年の下がっている口角と、深い眉根のしわから、今度は私かと身構えたけど、どうやら彼にその意思はないらしく。
攻撃のために上げていた腕を下げ、そのまま流れる動きで机の上のラム酒の瓶を煽る。

「…攻撃しないの？」
「…テメェも笑うなら殺してやる」

率直に質問したら、案外簡単な答えが返ってきた。