10 ページ10
店頭の店員さんに小銭を手渡して、すぐに元いた場所へとんぼ返りする。
体の向きは違うけど、アーケードの柱に寄りかかるように立ってるAの姿を見てほっとして、小走りで駆け寄った。
「ほら」
自分の足元から視線を上げないAの視界に入るように、買ってきたそれを差し出す。
驚いて肩を揺らしたAは、一瞬俺を見上げると、すぐにまた顔を伏せて俺の手から小さな包みを受け取った。
包み紙の暖かさと、香ってくる甘いカスタードの匂い。
この商店街では人気の鯛焼きを手に、Aの口元が少しだけ緩んだのが見えて、さっきまでの気まずさが少し軽減された気がした。
「私、今日ジャンケンに勝ったっけ」
「気まぐれ。いいから食えよ。ここの鯛焼き好きだろ」
「うん。頭から尻尾の先まで餡が詰まってるからね」
「あんこよりカスタードだろ」
普段通りに話ができそうで、このまま悩みを聞いちまおうと思った。
とりあえず食べやすいようにAの分の鞄も持とうと手を出したら、それを見て、Aは鯛焼きを半分に割ってよこしてくる。
「ちげーよ、鞄だよ鞄」
「自分で持てるよ」
わざと俺とは反対側に鞄を持ち直して、Aは尻尾側にかぶりつく。
仕方ねーから遠慮なく頭側をもらって、三口で平らげた。
Aは口が小せえから、商店街を歩きながら食べ終わるのを待ってると、まだ半分も食ってないのに「ありがとう」と不意なお礼をもらった気がした。
人も多いし、ゲーセンの音漏れもあるしで、身長差もあるAの声だったのか定かじゃない。
けど、少し猫背になって様子を見れば、さっきより随分顔色が良くなってるのが見えて、きっとこいつの言葉だったんだろうと思うことにした。
やっと食べ終わった頃には商店街を抜けて、はじめてAのスタンドを見た公園まで来ていた。
残った鯛焼きの包み紙を取り上げてポケットに突っ込む。
何か言いたそうな顔を無視してベンチに座れば、Aもおずおずと俺の隣に腰を下ろした。
だいぶ顔色も良くなってるし(むしろ少し赤いくらいで)、もしかしたら無理に相談に乗る必要もないかと思ったけど。
「今日なんかあった？」
そのままにして帰るには気がかりだったから、気にせず聞くことにした。
前振りもなく投げられた質問に、Aは焦ったような表情を見せたのが、やっぱり何かあったんだと確信させる。
「なにもないけど」
「嘘つくんじゃあねーぜ。バレバレだってーの」
顔にも出るし、指を噛む癖にも出てる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 489人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まゆげ - とても面白くて�，�らイッキ見しちゃいました！まってます❤︎ (1月10日 14時) (
レス) @page41 id: 0d6506373d (このIDを非表示/違反報告)
らりら(プロフ) - 度々読み返してます！更新楽しみにします！無理のない範囲で頑張ってください！応援しています☺︎ (8月12日 23時) (レス) @page41 id: 70cf89f8ce (このIDを非表示/違反報告)
よる - めちゃくちゃ女の子の設定が大好きです！！いい感じに狂ってる異常性が好みです！！ありがとうございます！ (7月5日 11時) (レス) @page41 id: a8f28a0fa7 (このIDを非表示/違反報告)
やぁでぅん - とても面白いですね！！自分ジョジョが大好きなのでとてもありがたいです！！無理のない程度で更新頑張って下さい！！ (2023年2月15日 23時) (レス) id: 92500eea4b (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 大豆太郎さん» 書き込みありがとうございます。1番好きと言っていただけてとても嬉しいです。更新はとても遅いのですが、気楽に、お暇な時にでも覗きに来ていただけますと幸いです。よろしくお願いします。 (2022年9月29日 17時) (レス) id: a1dae06abc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sora
| 作成日時：2020年9月29日 20時
