07 ページ7
小さな物音を立てただけで、あっという間に見つかって私は金髪少女に拘束された。
さっきまで激しい戦闘をしていたとは思えないほど軽やかに、けれど力強く地面に押しつけられて苦しい。
どうしよう、なんて声をかければいい？
敵じゃありません、味方です。でも記憶がありません。
そんな話、信じてくれるはずない。
ぐるぐる思考を巡らせても打開策は浮かばないし、腕の拘束も解けない。
いいかげん肩が痛くて涙が滲み始めたとき、頭上から私を解放しろというラボの声がした。
ああ、そうか。
このラボという男のそばに女がいるとダメなんだっけ。
渋った金髪少女に厳しく「良いからどけ」とラボが言い放ち、あろうことか私の目の前に膝をつく。
解かれた拘束に大きく息を吐いて、ゆっくり体を起こした。
頬についた土を払いながら視線をあげたとき、ラボの腕が伸びてくる。
思わず身を引きそうになったけれど、髪の隙間から見えた赤い煌めきに、心臓がどくりと動き始める。
あかい、ひかり…？
伸びてきた手先は爪も割れて傷だらけで、それでも優しく私の髪を耳にかけてくれた。
開けた視界で、目の前の男の顔がよく見えるようになる。
最初に目がいったのは、やっぱり、その赤い瞳だった。
深い赤。
まるでガーネットのような色。
月明かりを浴びてキラキラしていて、目が離せなくなる。
「…ガーネット…」
「っ、」
傷だらけの指先に、ガーネットの瞳。
額まで伸びる、眉頭のひび割れ。
絶対そうだ。
この人が、石神千空…
私の呟きを聞き逃さなかった彼は、口を真一文字に結んで、次の瞬間、強く私を抱きしめた。
ぎゅうぎゅうと苦しいくらいなのに、彼の肩口に預ける頬と、そこから伝わってくる熱が心地良くて抵抗を忘れる。
鼻腔をくすぐる薬品のような、不思議な香りも苦じゃなくて、むしろ懐かしさを覚えた。
本の中の『私』は、いつもこんな暖かい腕の中にいたのだろうか。
ひたむきに彼だけを追い続けようと決めた『私』に、想われる続ける男。
ふっと、体温が下がった気がして、私は彼の肩を押した。
「…A？」
…不思議そうに顔を覗き込んでくるガーネットの瞳にも、『私』にも申し訳ない。
こんな、なにも知らない、本の知識しかない今の私には、彼の腕に収まる資格なんて。
それに、この人はさっき他の子とキスしてた。
信じたい。
信じたいけれど。
「…申し訳ないけれど、私、あなたのこと、覚えてないの」
信じきるには、あまりに時間が足りなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 216人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
sora(プロフ) - 北さん» そして、この小説をきっかけにアニメだけではなく、原作まで手を伸ばしていただけたこと本当に嬉しいです。原作の彼らが大好き過ぎてできた作品なので、是非本編を片手に読み進めていただけると幸いです。宝島編はまだ続きますが、最後までよろしくお願いします。 (2020年8月2日 16時) (
レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
sora(プロフ) - 北さん» いつもご感想ありがとうございます。小さな手がかりからでも誕生日を当てられるくらい、彼も彼女のとの些細な日常を大切にしていると思います。いつも静かに寄り添ってくれていたからこそ、真正面からぶつかるのは、彼自身ドキドキしたかと思いますが。→ (2020年8月2日 16時) (レス) id: 1d20492120 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 実は私、アニメ民でほとんど内容を知らなかったんです。けれど、この小説を本当に楽しく読みたいと思い、漫画も読み始めてしまいました。（ついでに星の息も読み返してしまい追いつくのが大変でしたが）。これからも無理のない程度に頑張って下さい。楽しみにしています (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 千空が誕生日を当てたとき、なんてヤバイやつなんだ…と心から尊敬しました（一個前の作品と続けて読んだためこの章じゃないかもしれませんが）。本当にsora様の書くお話が好きでたまりません (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
北(プロフ) - 完結お疲れ様です。お疲れ様でした。本当…もう…素敵でした…。私の語彙力では言い表せませんが、とにかく読んでいて幸せでした。愛史ちゃんの記憶が消えてしまってとても悲しいですが、記憶がなくなってもなお、千空を信用していてなんだかきゅんきゅんします。 (2020年8月2日 0時) (レス) id: c788d63342 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：sora
| 作成日時：2020年7月19日 22時
