【ｲ.ﾅ.ｽ".ﾏ.ｲ.ﾚ.ﾌ".ﾝ】Dear My World【Ⅰ】 (ページ12)

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10.道中ページ12

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西の空にかすかな茜色の残映があるが、ほぼ日の暮れた春の夜。街頭や目に入る家々の灯りが辺りを柔らかく照らしている。頼まれて外に出たは良いが、スーパーまで少し遠いな。と弟は溜息をつく。しかし、姉も父も忙しくしているのだし、協力しない訳にはいかない。それにいい運動にもなる。

先程から読者諸君は疑問に思ってるだろう。彼の姉が何故多忙なのかを。彼女、Aは現在シンガーソングライターになる為に、事務所で連日練習をしているのだ。最近はデビューに向け、ブログなどのネットでの宣伝も始まっている。家計は少し厳しいが、わざわざ父が私立の中学校へ入学させてくれたのも雷門中がそのような芸能活動に対しても寛容な学校だったからだ。そんな父の愛情に答えるため彼女は奨学金をもぎ取り、日々練習に勤しんでいた。それも相まってか、徐々に知名度が上がり事務所からの要求も増えはじめていた。それなのに、あの姉は勝手に入部などと話を進めているのだ。

勘弁してくれ。
姉さんが倒れたら自分は──

…ネガティブな思考は止めよう。
昔からの悪い癖だ。治そうとしてはいるのだか、如何せんこれは性分である。まぁ、姉が大丈夫と言うのなら信じてみるしかない。それに、姉は十分実力はある、と贔屓目だが弟としてそう思う。それほどに彼女は、今まで努力を続けてきたことを弟は知っている。そうである。毎日発声練習をし、自ら作詞作曲までもこなしているあの豪胆姉貴を信じなくてどうする。
あれこれと考えているうちに買い物を終えた。

「ケチャップに、明日のおかず…だけだよな。」

改めて頼まれたものを確認した後、帰路につく。外はもう春とはいえどもまだ冬の凍てつくような気配は残っていた。少しの肌寒さを感じ身を縮こませ、そういえばと弟は思い出したように呟く。

「スパイク、新しいの欲しいな…」

彼も実は乗り気なのであった。