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「ほら、驚いてる暇なんてないわよ。 立って立って〜」
動くこともできず、呆然と地面に縫い付けられたまま一部始終を眺めていた乙骨は、ぺちぺちとAに催促するように頬を叩かれたせいで無理やり体を起こすことになった。
未だ鳩尾に痛みと違和感が残っていたが、Aが何もしてこないのなら放っておいて問題ないのだろう。
そう結論づけて、手の中に収まっている刀を見る。
刀は静かに、役目を与えられるのを待っていた。
「乙骨くんの意志があって、完全顕現したらちょっと大変だけど、そうじゃないなら多分大丈夫よ。 もし乙骨くんが間違っちゃっても、ちゃあんと殺さない範囲で止めてあげるわ〜」
くふくふ。上品さの中に、隠しきれないわずかな狂気を孕みながら、Aは笑う。
覚悟を決めた乙骨が刀を構えたのを見た途端、その笑みはより一層深くなった。
それから、呪力を交えた乙骨の刀と、Aの手に収まる大きさのタガーナイフが何度も金属音を響かせた。
刀身のリーチは乙骨にあるはずなのに、Aの無駄のないナイフ裁きがその有利を殺している。
至近距離で何度も打ち合っているうちに、乙骨の制服の袖は割け、頬には赤い線が増えていた。
対して、Aの真白い肌には傷どころか汗一つ見当たらない。
「あ、ほら。 また大振りにするから中ががら空きよ」
「っ、…!」
「そうそう、呪力でちゃんと守らないと受けきれないわよ〜」
軽く打ち出されたように見えるAの一撃は、受け止めてみると予想の数倍重い。
そのせいで、刀に呪力を流すのが間に合わなかったり、中途半端に呪力を纏わせた状態で受け止めると、途端に乙骨は足を浮かされてしまう。
ただでさえ手数が多いAの攻撃を全て警戒しながら立ち回らなければいけないこの状況は、乙骨でなくとも厳しいものである。
乙骨はなんとか食らいつこうと歯を食いしばって、刀を握る手に力を込めた。
「ふふ、どうすれば素早く刀に呪力を流せるのか、知りたい?」
「え、…っと…!」
乙骨の脳内は目の前の戦闘のことで精一杯で、Aの問いかけに思考をさく余裕はなかった。
そのせいで、肯定とも否定とも判別しがたい返事になってしまったが、もとよりAに乙骨の返事を聞く気はない。
Aは目の前の男の調子など一切気にせず、自分のペースで打ち合いを続けながら、言う。
「コツは、無駄な思考を減らすことよ。 乙骨くん、折角センスがあるのに勿体無いわ」
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カナデ(プロフ) - 頭のイカレた美女が大好きです!!!更新待ってます! (2022年10月29日 23時) (レス) @page30 id: d6342d80f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ポチ | 作成日時:2021年3月16日 22時