狗巻くんを泣かせたい！ (ページ3)

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日焼けを知らない真っ白な肌が卸したての制服の袖からのぞき、カツカツとチョークで黒板に名を書く音だけが木霊する教室。

やがて、その音がやむと同時に彼女はくるりと振り返って、ゆるく口角を上げて微笑んだ。

陶器のような透明感のある肌に、薄い桃色の真珠を埋め込んだかのような色の潤んだ瞳と、その白い顔に映える小さくて色鮮やかな赤い唇。

その顔立ちは、五条と並んでも劣らないほどに整っていた。

「九十八(にたらず)Aです、よろしくお願いします」

そう言いながら礼儀正しく45度に折り曲げた腰は、制服の上からでも分かるほどに細い。

か弱そうで、儚くて触れたら壊れてしまいそうな、まるで精巧なガラス細工のような女だ。

その女を前に、五条を除いた教室にいる面々は暫く放心していた。

あまりの美の暴力。それは、美しい等とありふれた陳腐な言葉では表しきれないほどの造形美。

彼女、Aは、見た者全てを虜にするような、庇護欲をこれでもかとそそられるような、そんな見た目をしていた。

――が、その印象は僅か数秒にして崩れ去る事となる。

「～～っ！なんて、可愛いの…！！」

がたんっ、と狗巻の机に詰め寄ったA。

突然その綺麗な顔で、頬を赤く染めて急接近してきたAに、狗巻は色んな意味でたじろいだ。

しかしAはそんなことを一切気に留めない。

するりと右手を狗巻のネックウォーマーの隙間に滑り込ませて、その頬に添えた。

その右手でくい、と狗巻の顔を持ち上げて目線を合わさせる。

そのままお互いの鼻先が触れ合いそうな距離まで顔を近づけて、つつ、と反対の手でネックウォーマーを引き下げ、その頬に刻まれている呪印を露わにした。

まるで二人の恋人同士のような距離感と甘い雰囲気に、クラスメイトが言葉を失っている中。

「素敵…素敵ね。ああ、この顔が涙でぐちゃぐちゃになって、苦痛に歪んだらどうなるのかしら…」

爆弾が投下された。