狗巻くんを泣かせたい！ (ページ2)

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次の瞬間、女に跳びかかっていたぬいぐるみ達は全て、その目的を果たすことなく空中で突然硬直した。

そのまま重力に従ってどさどさと地面に落下し、ぴくりとも動かなくなる。

その光景に男が驚くのを余所に、女はくるくると艶やかな髪先をいじりながら続けた。

「人生なんて長い暇つぶしよ。いちいち物事にそんなに崇高なものを抱えて生きてたら疲れちゃうわ。それに、悔いのない死なんて、呪術師じゃなくても極稀な事でしょう？」

女はそこまで言って、未だ床に伏しているぬいぐるみ達に触れた。

ふわふわ、とその手触りを楽しみつつも、視線は一切ぬいぐるみ達から逸らさない。

「…まあ、でもそうね。何か一つ楽しみを掲げるとしたら」

わざとらしく、考えるような素振りを挟んだ後、

「16年間、探し続けてもまだ巡り合えない“運命”に出会いたいわ！呪術師は常に死と隣り合わせなんでしょう？きっと沢山血が流れるはずよね…♡」

恍惚とした表情を浮かべ、そう言った。

　 ◆

「はい、おはよー！今日は転校生がいまーす」

「は？」

乙骨憂太の転校からわずか数日。

何の前触れもなく朝一にそう言ってのけた担任の五条悟に、顔をしかめた生徒――禪院真希は、「はぁ」と一つため息をついた。

「またかよ。てか、そういうことは早く言えよ」

「いやあ、すっかり忘れてたよね～」

全く反省していなさそうな五条を前に、段々と責める気も失せたのだろう。

真希は頬杖をついて、ふい、と窓の方に顔を逸らした。

「にしても多いな、転校生。人手不足が常って業界なのに珍しい」

「しゃけしゃけ」

そんな二人を眺めながら話す、パンダと狗巻棘。

乙骨は、自分より後に転校生が来るなどと考えてもいなかったので、その意識の殆どを扉の向こう側にやっていた。

「ま、お喋りはこれくらいにしておこうか。はい、入っていいよー」

相も変わらず適当で、気の抜けた担任の声を合図に、がらり、と木製のドアが開かれる。

入ってきたのは、細い腕に細い足をした、全体的に華奢な体つきの女性。

ふわふわと波打つ腰までのロングヘアが、彼女の柔らかい雰囲気をより一層際立たせている。

きらり、と彼女が一歩足を進めるたびにその白銀の髪が光を反射して控えめに輝いた。