肆拾玖【■の使い】 ページ49
そのまま、いつまでも離れずに付いてくる後ろの気配に気づかないふりをして、あの森と村の境目まで来た時。
「…はあ」
ついに根を上げたのは、私の方だった。
「分かったわよ、ほら」
両手を差し出せば、兎は何の抵抗もなくその上にぴょんっと飛び乗る。
全長は10センチくらいで、両手に収まる程小さな体だ。
≪へえ、殺さないんだ≫
「こんなの殺してどうするのよ」
≪べっつに〜? ただ、憂さ晴らしにはなるかも≫
「私、そんなに子供じゃないわ」
≪…ふうん?≫
何やら言いたげな様子の鬼だったが、それ以上私との間で言葉を交わすことは無かった。
兎を肩に乗せ、ぱんぱんっと手を払う。
「落ちたら捨てていくわよ」
兎に人語は通じないが、雰囲気で察したのか、肩に爪が食い込んだのを感じる。
直後、静かな風の音だけを残して、その場から私の姿は消えた。
◆ ◆ ◆
からから、からから。
真っ暗な世界で、鎖に繋がれた鬼は至極楽し気に嗤う。
≪あは、最初から今みたいな速さで動けば、殺さなくてもこんな小動物放っていけたくせに≫
≪や〜っぱり、Aってば寂しいんだねぇ? 人間じゃないならいい、とか思ってそうだ≫
≪楽しみだねぇ〜。 次はそれを何の代わりにするつもりかなぁ≫
からから、からから――…
◆ ◆ ◆
【向日葵の独白】
――■■■は、知っていた。
いつもこの山の奥にある洞窟で、寂しそうに身を丸めて眠る鬼がいることを。
昼間はそうしていて、夜になるとあの鬼は洞窟から出て、山をふらりと歩き始める。
そして、朝日が昇る前には、出かけるときにはなかった赤色を口元に付着させて戻ってくるのだ。
■■■は、何故かこの鬼のことが心配だった。
眠る必要のないはずの鬼が、必死に眠ろうと体を丸めているその隣に何度も寄り添った。
「独りにして、ごめんね」
そんな鬼が、ある日やって来た見慣れない服の女にすぱりと首を刎ねられた。
サラサラと灰になって風に飛ばされる鬼は、最後にほんの一瞬だけ、笑ったような気がする。
「独りで逝かせて、ごめんな」
――■■■は、知っていた。
この鬼が、この後自分の辿った道と同じところを歩くことは出来ないということを。
それでも■■■は女に感謝した。
大好きなあの人を、救ってくれてありがとう。
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ポチ(プロフ) - にゃけいさん» コメントありがとうございます! ああぁ、すみません…おばあさまは、残念ながら…もう、もう…! 泣いていただけて作者もおばあさまも喜んでおります、ありがとうございます。゚(゚´///`゚)゚。 (2021年4月14日 0時) (レス) id: fa11ea0a31 (このIDを非表示/違反報告)
にゃけい - お祖母様がア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ 泣いちゃったじゃんかあああ〜 (2021年4月12日 0時) (レス) id: 6b9d02d201 (このIDを非表示/違反報告)
ポチ(プロフ) - 海月さん» コメントありがとうございます! わぁああありがとうございます…!!私も両作品大好きなので、これからも応援していただけるようコツコツ更新頑張りますね!温かいお言葉が何よりの活力です、ありがとうございます! (2021年4月9日 21時) (レス) id: fa11ea0a31 (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - コメント失礼します!終わセラと鬼滅どっちも好きなんですよね!だからこの作品とても素敵です!好きです!いつまでも応援してます!更新頑張ってください! (2021年3月23日 23時) (レス) id: 35dd37fd2f (このIDを非表示/違反報告)
ポチ(プロフ) - 柊姉妹尊い!さん» コメントありがとうございます!遅くなって申し訳ありません…。ゆっくり更新していきますね!大変長らくお待たせいたしましたm(__)m (2021年3月10日 19時) (レス) id: d4a5824d33 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ポチ | 作成日時:2020年5月13日 0時