肆拾陸【嗤う黒鬼】 ページ46
崩れた体制のまま、突き出された左腕を掴む。
掴んだ手のひらから腕にかけて火が燃え移り、皮膚が焼けていくのを無視しながら、ごきっと骨の折れる音がするまで力を込めて握る。
そして、その腕を引っ張って崩れた体制を立て直し、逆に異形の体制を崩す。
「くそっ、離せ…!」
「いいわよ」
暴れる異形を掴んだ腕を中心にして回し、そのまま地面に叩きつける。
「か、はっ…!」
後頭部を強打して一瞬意識を飛ばした隙を見逃さずに、その首に刀を振り下ろす。
「終わりよ」
「…ぐ、」
呻きながら、異形は最後の抵抗とでもいうように左手で握った石ころを投げる。
「理不尽な世界を呪いたくなったことがあるか、と聞いたわね。 そもそも世界は
異形の首が宙に舞う。それと同時に、最後に投げた石がコツンと脛に当たる。
瞬間、石が当たった場所の皮膚が消え、下の肉がむき出しになった。
「あら、そういう使い方もできたのね」
鬼の呪詛が回っている体はすぐに新しい皮膚を再生していき、瞬く間にもとの傷一つない足に戻る。残ったのは、一か所だけ不自然に穴の開いた靴下だけだ。
≪もう少し戦い方が上手ければ危なかったかもねぇ〜?≫
「…それでも、負けることは無いわよ」
世界は最初から理不尽にできていて、弱者は強者に貪られ、奪われる側は永遠に奪われるまま生きていく。おとぎ話のような救いはどこにも無いのだ。
「呪っても願っても嘆いても、結局世界は変わらないもの」
いつの間にか、山の向こう側から光が漏れだして空が色づき始めている。
異形は、朝日に焼かれる前に灰になって崩れていった。世界の誰にも、彼の嘆きが届くことは無い。
「…あは、鬼の宿った武器で鬼を殺す…なんともまあ、皮肉なことね」
私の憤りも、きっとどこにもいけはしない。
◇ ◇ ◇ ◇
「ひどい有様ね」
朝日に照らされた雲祢村には、もうかつてのような面影は残っていない。
焦げて朽ち果てた家と、こびりついた死臭。
昨夜から隠が片付けているが、それでもまだ悲惨な光景が広がっていた。
「――あっ、Aちゃん!」
そんな村をあてもなくふらりと歩いていれば、どこか聞き覚えのある声が後ろから私の名前を呼んだ。
「…そね、づか…さん?」
「覚えててくれた? よかったぁー、ずっと会いたかったの!」
埣塚さんは、涙の跡が残る頬を緩めて明るく笑った。
217人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ポチ(プロフ) - にゃけいさん» コメントありがとうございます! ああぁ、すみません…おばあさまは、残念ながら…もう、もう…! 泣いていただけて作者もおばあさまも喜んでおります、ありがとうございます。゚(゚´///`゚)゚。 (2021年4月14日 0時) (レス) id: fa11ea0a31 (このIDを非表示/違反報告)
にゃけい - お祖母様がア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ 泣いちゃったじゃんかあああ〜 (2021年4月12日 0時) (レス) id: 6b9d02d201 (このIDを非表示/違反報告)
ポチ(プロフ) - 海月さん» コメントありがとうございます! わぁああありがとうございます…!!私も両作品大好きなので、これからも応援していただけるようコツコツ更新頑張りますね!温かいお言葉が何よりの活力です、ありがとうございます! (2021年4月9日 21時) (レス) id: fa11ea0a31 (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - コメント失礼します!終わセラと鬼滅どっちも好きなんですよね!だからこの作品とても素敵です!好きです!いつまでも応援してます!更新頑張ってください! (2021年3月23日 23時) (レス) id: 35dd37fd2f (このIDを非表示/違反報告)
ポチ(プロフ) - 柊姉妹尊い!さん» コメントありがとうございます!遅くなって申し訳ありません…。ゆっくり更新していきますね!大変長らくお待たせいたしましたm(__)m (2021年3月10日 19時) (レス) id: d4a5824d33 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ポチ | 作成日時:2020年5月13日 0時