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肆拾壱【カミサマの使い】 ページ41

じりじりと炎の熱が肌を焼き、熱い空気を吸い込む肺を中心に体全体が熱を持ち始める。


――村の中は、酷い有様だった。


あちこちから呻き声が聞こえ、家々から火が上がっている。


そんな当たり一目火の海と化した村の中を走って、目指すのはあの老婦人の家。


「…嫌な予感がするわ」


≪あのお婆さんのこと? あは、流石に死んでると思うけど≫


「そういう意味じゃないわよ」


確かに、この状態ならまず間違いなく死んでいるだろう。


しかし、それ以外の、何か言葉にし難いような不快感がこの村に来た時から胸中に渦巻いていた。


人が焼けるときの独特な異臭と血の臭いが漂う中を進み、ようやくたどり着いた老婦人の家は、やはり他の家と同様炎に包まれている。


耐火の呪符を使って制服の強度を上げてから、燃えて脆くなった家の戸を蹴破って中に入る。


見慣れた土間を通り抜け、燃える居間の戸を切り裂けば、その不快感の正体が露わになった。


「…おばあ、さま…?」


――何かがおかしいと思っていた。


ここまで来る途中、まだ生きている人の気配は確かにあったのに、逃げ惑う村人を一人も見かけなかった。


家に火をつけられただけにしては、鼻をつく独特な臭いがあまりに濃いことも気になった。


これほどの大火事だというのに、逃げ遅れて被害にあった人が多すぎるのだ。


「…A、ちゃ…ん?」


違和感の正体は、目の前の老婦人が全て教えてくれた。


掠れて声にならない声を出したのは、全身火に包まれた老婦人だ。


しかしその火の燃え広がり方は、明らかにおかしい。


畳の床や木の柱にはあまり燃え移らずに、老婦人とその周りを中心に激しく燃えているのだ。


「――まさか、」


考え至った結論にぞっとした時、目の前の老婦人が小さな声をもらした。


「…迎え、に…来てくれ…たん、だね…」


「…は?」


嘘のように人体を火種にして燃え上がる炎が老婦人の顔を隠してしまっているせいで、その表情は上手く読み取れない。


そんな中、老婦人は私の反応などお構いなしに、最後の力を振り絞るようにして続ける。


「…やっ、ぱり…Aちゃん、は…神様の…使い、だぁね…」


そしてその言葉を最後に、どさりと糸の切れた人形のように床に倒れこんだ。


何も言えず、動かなくなった老婦人をただぼうっと見つめる。


いつの間にそこにあったのか、老婦人の体に刻まれた赤い六芒星だけが揺らぐ炎の中ではっきりと浮かび上がっていた。

肆拾弐【鬼ごっこ】→←肆拾【赤に包まれて】



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ポチ(プロフ) - にゃけいさん» コメントありがとうございます! ああぁ、すみません…おばあさまは、残念ながら…もう、もう…! 泣いていただけて作者もおばあさまも喜んでおります、ありがとうございます。゚(゚´///`゚)゚。 (2021年4月14日 0時) (レス) id: fa11ea0a31 (このIDを非表示/違反報告)
にゃけい - お祖母様がア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ 泣いちゃったじゃんかあああ〜 (2021年4月12日 0時) (レス) id: 6b9d02d201 (このIDを非表示/違反報告)
ポチ(プロフ) - 海月さん» コメントありがとうございます! わぁああありがとうございます…!!私も両作品大好きなので、これからも応援していただけるようコツコツ更新頑張りますね!温かいお言葉が何よりの活力です、ありがとうございます! (2021年4月9日 21時) (レス) id: fa11ea0a31 (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - コメント失礼します!終わセラと鬼滅どっちも好きなんですよね!だからこの作品とても素敵です!好きです!いつまでも応援してます!更新頑張ってください! (2021年3月23日 23時) (レス) id: 35dd37fd2f (このIDを非表示/違反報告)
ポチ(プロフ) - 柊姉妹尊い!さん» コメントありがとうございます!遅くなって申し訳ありません…。ゆっくり更新していきますね!大変長らくお待たせいたしましたm(__)m (2021年3月10日 19時) (レス) id: d4a5824d33 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ポチ | 作成日時:2020年5月13日 0時

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