参拾【脆い場所】 ページ30
「…ところで、さっきから気になっていたのだが」
会話に一区切りついたのを見計らってか、今度は今まで黙っていた悲鳴嶼が口を開いた。
「なにかしら」
それが私宛であることは明白なので、返事をすれば、彼はじゃらり、と手に持った数珠をいじりながら続けた。
「“異形”と言っているのは…鬼のことだろうか」
「あァ? そういえばそんな地味な言い方してたな」
悲鳴嶼の言葉に同意するように宇随も言う。
≪そうだよぉ、A。 キミってばいつまで頑なにそう言い続けるつもりなの〜? ここではあれが鬼なんだよ?≫
そして、ついには“鬼”の声までが脳内に響いた。
(嫌よ)
声には出さず、鬼にだけ短くそう返してから悲鳴嶼と宇随に返答しようとすれば、それを阻むかのように鬼が更に口を開いた。
≪なんで〜〜? なんなの、キミそんなにボクの事好きだったっけ?≫
煩い。鬼が話すたびに頭が痛い。聞き捨てならない台詞が聞こえた気もしたが、無視を決め込んだ。
「そうね。 私にとっての“鬼”と違うせいで、どうしても慣れなくて」
「ま、伝わればなんでも良いけどよ」
≪うわぁ、Aの嘘つき〜。 しかも都合が悪いことだけ無視するなんて、ひどいなぁ≫
「そう言ってもらえると助かるわ」
宇随への返答に、悲鳴嶼はただ黙って涙を流すだけだったが、何も言わないあたり何かしら疑問は解消されたと捉えてよさそうだ。
≪ねぇA。 キミ、ボクの名前呼ぶのが嫌なんだろ?≫
そんなことを考えていると、唐突に鬼の声が大きくなった。
≪あっはは、かわいいなあ。 ボクのことを“鬼”じゃなくて名前で呼ぶことで、距離が近づくのが怖いんだ≫
≪ねえ、ねえA。 ボク、キミのそういうところだぁい好きだよ。 強がってるくせに怖がりなA。 キミのそういうところはホント人間臭くて最高だね≫
ガンガンと頭の中から何度も殴られるような感覚に襲われる。痛い。痛い。不快だ。
「……」
悲鳴嶼が、様子の変わった私の刀にその色を映さない目を向けているのにも気づけないほど、今の私は鬼の声に囚われていた。
≪キミってば人間の彼らにでさえ距離を置いちゃってさぁ。 ほんと可愛いよねえ≫
(うるさい、うるさいっ…!)
≪あはぁ、そんなに気にしなくても大丈夫だって。
__だってキミは、騙すのは誰よりも得意で≫
「黙れ!!」
耐えきれず叫んだ瞬間、ぶわりと刀が禍々しい力を纏った。
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ポチ(プロフ) - にゃけいさん» コメントありがとうございます! ああぁ、すみません…おばあさまは、残念ながら…もう、もう…! 泣いていただけて作者もおばあさまも喜んでおります、ありがとうございます。゚(゚´///`゚)゚。 (2021年4月14日 0時) (レス) id: fa11ea0a31 (このIDを非表示/違反報告)
にゃけい - お祖母様がア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ 泣いちゃったじゃんかあああ〜 (2021年4月12日 0時) (レス) id: 6b9d02d201 (このIDを非表示/違反報告)
ポチ(プロフ) - 海月さん» コメントありがとうございます! わぁああありがとうございます…!!私も両作品大好きなので、これからも応援していただけるようコツコツ更新頑張りますね!温かいお言葉が何よりの活力です、ありがとうございます! (2021年4月9日 21時) (レス) id: fa11ea0a31 (このIDを非表示/違反報告)
海月(プロフ) - コメント失礼します!終わセラと鬼滅どっちも好きなんですよね!だからこの作品とても素敵です!好きです!いつまでも応援してます!更新頑張ってください! (2021年3月23日 23時) (レス) id: 35dd37fd2f (このIDを非表示/違反報告)
ポチ(プロフ) - 柊姉妹尊い!さん» コメントありがとうございます!遅くなって申し訳ありません…。ゆっくり更新していきますね!大変長らくお待たせいたしましたm(__)m (2021年3月10日 19時) (レス) id: d4a5824d33 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ポチ | 作成日時:2020年5月13日 0時