空十七日目 ページ17
そして、二つの内のひとつをわたしに差し出してきた。
「そして、君の家が隣ということも教えてもらった。……これが君宛の手紙。読んでみて」
「ちょ、ちょっと待ってください！」
慌てて遮り、小首を傾げる彼女にずいっと迫った。
「何ですぐに渡さなかったんですか？あなたはわたしの住所を知っていたんですよね？」
「それは、」
「そもそも、なぜお姉さんは手紙を書いていたんですか？亡くなったのは事故だったんじゃ……」
すっ、と伸びてきた手がわたしの腕に軽く触れる。
その瞬間、ふっと感情が鎮まった。
「……すみません、取り乱して」
「いいよ。わたしもきっと君の立場だったらそうなってる」
お姉さんは、ふうーっと息を吐いた。
「……手紙は、わたしが死ぬまでにしたいことを話して、いつ死ぬかなんてわからないからって思ってちょくちょく書き直してたみたい。すぐに渡さなかったのは……」
一瞬の間があり、どくんと心臓が音を立てる。
「施設の人からの伝言。もし自分が死んだ後に君が死にそうな顔をしているときに渡してくれって、もともと頼まれていたらしくて。
だけど、施設からここはそこまで近くない。だから、隣の家で知り合いでもあったわたしに役が回ってきたってわけ」
「……死にそうな、かお」
その人は、少し躊躇いがちに頷いた。
「死にそうだったよ。ふらふらしてて、今にも倒れそうだった」
間違っちゃいないけど、そんな風に映ってたのか。
すとんと、身体から力が抜ける。
「毎日、この部屋の窓から君が出かける時の顔を観察していたんだけど、最近暗い顔をするようになったから心配で、なるべく長く見ていられるように気をつけたんだ。
そしたら、こんな時間にふらっと家から出てきたものだから。ただごとじゃないんだろうなと思って」
そしてもう一度、繰り返す。
「この手紙、読んでくれる？」
改めてもう一度差し出された封筒を見つめて、少し躊躇う。
こんな手紙を読んだら、決心が鈍ってしまうのではないか。ここまできたのに、台無しになるのではないか。
そんなわたしの心を見透かしたように、その人は尚封筒をわたしの胸に押し付けてきた。
「わたしはできれば死んでほしくないけど、強制はしない。……ただ、この手紙は読んでほしい。でなきゃ、あの子が浮かばれない」
わたしは一瞬固まり、その後でため息を吐いてから封筒を受け取った。押しには結構弱いのだ。
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ねこる。 - えるさん» コメントありがとうございます！わたしの小説で心が透明になるだなんて嬉しい限りです…。もっと色々な表現ができるよう頑張ります！ (2021年10月26日 7時) (
レス) id: b433a40741 (このIDを非表示/違反報告)
ねこる。 - まめふなさん» ありがとうございます！レス遅れてすみません…。お話素敵って言ってもらえて嬉しいです！頑張ってラストまで書きます！ (2021年10月26日 7時) (レス) id: b433a40741 (このIDを非表示/違反報告)
える - なんか単純に綺麗って言葉が出てきました。空の美しい描写、主人公さんたちの感情表現の書き方が綺麗だと思いました。このお話を読んでる間は心が透明になってる感じでした。作者様の書き方尊敬致します。 (2021年10月17日 7時) (レス) @page27 id: cbb903ca6b (このIDを非表示/違反報告)
ねこる。 - 丙ののののさん» コメントありがとうございます！空の描写はめちゃめちゃ時間かけたので、そう言ってもらえると嬉しいです…。今後も感激してもらえるよう頑張ります！ (2021年8月16日 8時) (レス) id: 035a026afe (このIDを非表示/違反報告)
丙のののの(プロフ) - 1話目を読み終えたところなのですが…これは…空の描写が美しすぎますね…！くどくないのに美しい情景が伝わる描写…占ツクで初めて見つけました。感激！ (2021年8月15日 22時) (レス) id: 4482ed7f20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ねこる。 | 作成日時：2020年6月5日 8時
