黒い龍の海賊【パイレーツ】 (ページ28)

今日:2 hit、昨日:10 hit、合計:348 hit

6-3 ページ28

.

「ジャック」

崩れた石壁。
穴の開いた牢屋。
比較的無事な奥の方を見ると、拳大の穴だけ傷ついた牢屋にお目当ての人物が寝転がっていた。

軍の人間が来たとでも思ったのだろう。
寝たふりをやめて起き上がったジャックは、フミカの姿を見て内心喜んだ。
だが、あえて落ち着いた振る舞いをしながら鉄格子に近づく。

「なんだ、まだここに残ってたのか。もうパールの上かと思ってたぜ」
「………………」
「つまりはあれだろ？俺をまだ捨てられない理由ってやつが―――…って、なんで鍛冶屋の小僧がここにいる」
「お前に話があるらしい」

フミカは壁に背を預けると、ウィルに場所を譲った。

「あの海賊たちを知っているのか？」
「話だけならな」

ジャックは素っ気無く答える。

「どこに停泊して、どこに向かっているかは？」
「知らんのか？知る者しか知らない、死の島。それが奴らの根城だ」
「案内できるか？」
「何でそれを俺に聞く」
「海賊だからさ」

当然だと言うように答えるウィル。
それに対して、ジャックは小さく笑った。

「海賊ならそこにもいるぜ？」
「ふざけるな。…ミス・スワンがさらわれたんだ」
「ほぅ。ようやく好きな女を見つけたか。なら、早く彼女を助けに行って、彼女の心を手に入れにゃあならんな。勿論お前一人でだ。手伝ったって俺には何の得も入らんからな」
「ここから脱獄させる」
「どうやって？鍵は逃げたぞ」
「この牢の扉は僕がとりつけたんだ。てこの原理を応用したら簡単に外せる」

そう言ってウィルは、近くにあった机に手を伸ばす。
その瞬間、ジャックの眼の色が変わった。

「お前、名前は？」
「ウィル。ウィル・ターナー」
「ウィリアムか。いい名前だ。男らしいじゃないか。父親譲りか？」
「そうだ」

ウィルの名前を聞いてジャックは納得した。
少し引っかかっていた彼の後ろ影。
それは昔の友人、ビル・ターナーの面影だった。
ようやく解けた一つのパズルにジャックは、最後の切り札であるウィルにニヤリと笑いかけた。

「よぉし！ターナー君、俺は気が変わった！君が俺を此処から出してくれたら、俺は君をブラックパール号まで案内しよう。どうだ？」
「わかった」
「交渉成立！出してくれ」

ウィルがベンチに体重をかけると扉は簡単に外れた。
ジャックは立ち上がり、外れた扉からヒョイと出てくる。
三人は見張りがいないのを確認して小走りに階段を上がっていった。