2人の男女 ページ32
「実はな...愛想を尽か
されてしまってな。」
いつも、はっきりとした物言いをする今野。
珍しく濁される言葉は、降谷に気まずさを与えた。
「えっ、それじゃあ..」
「別れたんだよ。愛依は、アイツについて行ったからな。今じゃ、この家は俺1人さ。」
「だからこうして、時々来てあげてるでしょ？」
少々自虐的な父親を想ってか、すかさず愛依が頬を膨らませながら抗議する。降谷は出された冷茶を
誤魔化す様に含むと、苦い物が同時に体内に広がった。
「そうだったんですね。」
「すまないな、お前に気を使わせて。まぁ、なんだ。その...零は仕事一本。その気が無い事くらい、重々承知の上だ。今日だけは、俺の我儘に付き合ってくれないか？」
「はい..」
降谷はハッキリ断っているとは言えど、今野の申し出をどうしても無下に出来ないのだ。そういう立場だ。
「おぉ、そうだった！食事はもう予約を入れてあるから、夜は是非そこに行ってくれ。」
その一声で、降谷のスケジュールが確定するのだ。
「お気遣い有難う御座います。」と、社交辞令染みた台詞を口にすると、愛依が嬉しそうに降谷の腕に巻きついて来る。
何も事情を知らぬ者が目にしたら、まるで恋人の様に映るかもしれない。いつもより輝度が増す、我が娘の降谷を見つめる瞳。そんな光景を側で、満足気に眺める今野。
「あっ！すみません、零さん。忘れ物を取って来ますから先に出てて下さい。」
我が物としていた降谷の腕をスルリと解放して、部屋の奥へ姿を消す愛依。その隙に今野が、降谷に
そっと耳打ちした。
― 零、改めて...色よい返事..待ってるからな。 ―
愛依には聞こえないように囁かれたソレは、降谷に目に見えぬ楔を打ったのだ。降谷の心の奥底に大切に秘めたそこに...あの気持ちに...しっかりと。
それからはお見合いと言うより、ただのデートと化していた。愛依のリクエストで臨海地区に新しく出来た商業施設へと繰り出す。首都高を降りてすぐのそこは、ちょっとした大人のデートスポット。
「零さん、こっちこっち。」
「そんなに走ると危ないですよ？」
華やぐ周囲の非現実的空間。嬉しくてはしゃいでいた愛依がまた頬を膨らませて詰め寄り、
「もうっ！零さん、いつまで敬語なの？気持ち悪いわ。」
観念した降谷は一息つくと、
「愛依...そんなにヒールの高い靴を履いて..苦手だっただろ？危ないぞ。 」
「もうっ、いつまでも子供扱いしないで下さい。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 681人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぷぅ(プロフ) - うわぁ、新人に降谷さんが好きですって言えなくて新人の恋愛に協力して下さいって言われたら私だったらこう言ったら｢何でですか？｣って理由を聞かれるだろうけど｢ごめん、無理｣って言っちゃうだろうなぁ(ノдヽ) (2019年11月7日 12時) (
レス) id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
カラ松ガール(プロフ) - うわっめっちゃいい所で！更新待ってます！大好きです！ (2019年11月5日 23時) (レス) id: addc97a0c8 (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - ヒロインが降谷さんの好きな人って分かったら婚約者(振られてるから元婚約者になるのかな？)きれいな顔をしておいて降谷さんにヒロインの事を幻滅させるような何かひどいいじめみたいな事して来そうで怖いから近づきたくない( ´-ω-) (2019年10月14日 12時) (レス) id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - うわぁ、好きな人が婚約者と話してる所を見るの嫌だし、その間に入るのも嫌だなぁ( T∀T)私なら仕事があるからとかって言って逃げちゃう( ＞Д＜；)でも降谷さんはヒロインを呼んでどうするんだろう？( ´△｀) (2019年10月14日 12時) (レス) id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
蘇澳(プロフ) - とっても素敵な文章と内容で、時間を忘れてずっと読んでいました！凄く続きが気になります！応援しています！ (2019年9月8日 9時) (レス) id: e4a4be21c3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ポポロン | 作成日時：2019年6月15日 12時
