＊ ページ19
先程から、でもでも...
と、何度も渋るA。
「2人きりの時くらいは、いいだろ？」
やり取りに耐えかねて、俯いてしまったA。
降谷はハンドルから手を離し、少しだけ助手席の方へ身を乗り出すと、
「前..みたいに呼べよ。」
優しい命令。
すっかり小さくなってしまったままの
Aの耳元で囁く。
「ほら、言って？」
彼の息づかいさえも感じるこの距離。
耳元を掠める彼の吐息は、Aの心を動かすには
十分だった。
降谷君は、狡いよ――
「..ふ、降谷..くん？」
恐る恐る、そのダークブラウンの瞳をすぐ側の
上司に向けた。
「そうだよ。」と、にっこり口元で弧を描く。
持て余した片手でAの頭をぽんぽんとそっと
撫でると、またハンドルへと本来の持ち場へ戻す。気づけば、信号機は青に変わっていたのだ。
彼の “ 優しい命令 ” は、車内の雰囲気をあっという間に、柔らかくしてみせた。
しかし、残念な事に庁舎まであと5分程の道のり。
いつも渋滞で中々進まないのに、今日に限って
やけにスムーズな移動である。
「A、仕事はどうだ？やり甲斐は見い出せて
いるかな？」
「えっ、仕事？ん..ついて行くのがやっとだけど
やり甲斐あるよ。でも..」
「でも？」
「仕事漬けの毎日に、少し疑問を感じるの。
ほら、私もうすぐ三十路だし。な、なんてね、」
へらへらといつもの様に笑って、何かを取り繕う。
「そうか...君はこのまま公安を続けて行くのか？」
「う、うん。まだ..頑張ってみようかな。」
頑張るとは、まだ降谷の事を想い続ける事でもある。そして、彼への想いを絶つ時は、恐らく今の場所を去る時。振られても尚、あの場所に居続ける様な鋼のハートなど、何処にも持ち合わせていないから。
いつかは、想いを伝えたい――
それとも..
貴方を想う事をあきらめて、いい加減違う恋を
探すべき？
Aの言葉には、こんな本心が隠れていた。
庁舎に到着すると、駐車場ではなく何故か路肩に一旦停車させた。
「そうだ、踵大丈夫か？」
「踵？？」
「さっき転んだだろう？少しぐらついて見えたけど。」
彼に指摘されて、ヒール部分を確認すると
根元に少し亀裂の様な隙間があり、触れると
不安定に揺れた。
「...やっぱり。すまない、僕が急かしたせいで。」
「このくらい大丈夫だよ、全然歩けるから。
降谷君が気にする事じゃないよ。」
「いや、この埋め合わせは必ずする。なっ、いいだろう？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 682人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぷぅ(プロフ) - うわぁ、新人に降谷さんが好きですって言えなくて新人の恋愛に協力して下さいって言われたら私だったらこう言ったら｢何でですか？｣って理由を聞かれるだろうけど｢ごめん、無理｣って言っちゃうだろうなぁ(ノдヽ) (2019年11月7日 12時) (
レス) id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
カラ松ガール(プロフ) - うわっめっちゃいい所で！更新待ってます！大好きです！ (2019年11月5日 23時) (レス) id: addc97a0c8 (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - ヒロインが降谷さんの好きな人って分かったら婚約者(振られてるから元婚約者になるのかな？)きれいな顔をしておいて降谷さんにヒロインの事を幻滅させるような何かひどいいじめみたいな事して来そうで怖いから近づきたくない( ´-ω-) (2019年10月14日 12時) (レス) id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
ぷぅ(プロフ) - うわぁ、好きな人が婚約者と話してる所を見るの嫌だし、その間に入るのも嫌だなぁ( T∀T)私なら仕事があるからとかって言って逃げちゃう( ＞Д＜；)でも降谷さんはヒロインを呼んでどうするんだろう？( ´△｀) (2019年10月14日 12時) (レス) id: b4f5c0261e (このIDを非表示/違反報告)
蘇澳(プロフ) - とっても素敵な文章と内容で、時間を忘れてずっと読んでいました！凄く続きが気になります！応援しています！ (2019年9月8日 9時) (レス) id: e4a4be21c3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ポポロン | 作成日時：2019年6月15日 12時
