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その時確かに、時間が止まった気がした。
マイクなんて持ってへんのに、澄んだ声はどこまでも伸びて……。
望美さんからはオーラのようなもんが放たれてた。
望 「いま披露出来るのは、ここまで。」
望美さんの言葉を聞いても、すぐには理解出来へんかった。
少し経って崇裕が拍手する音に、ようやく現実世界に戻ってくる。
崇 「さすが望美、曲も歌もサイコーや。ね、Aもそう思ったやろ？」
崇裕に同意を求められても言葉にならんくて、私はとにかく必死にうなずく。
望 「本当？嬉しいな。」
そう言ってはにかむように笑う望美さんは、直視出来ないくらいの可愛さで。
私はさらにドキドキする鼓動を抑え、感想を伝えようと口を開いた。
──────やけど、一瞬遅かった。
望 「今のはな、あの曲……『泣き虫カレシ』のアンサーソングでもあるんや。それでな、ライブでは濱ちゃんにも一緒に歌ってほしいなって」
しんと部屋が静まり返った。
何事か打ち合わせしてた桐子先生と浜名さんも、ピタリと黙っている。
呼びかけられた崇裕はといえば、呆気にとられたように目を丸くしていた。
『泣き虫カレシ』は、崇裕と望美さんの思い出が詰まった曲。そのアンサーソングでもあるという新曲を、ステージで一緒に歌える─。
そう思った時、私の体はひとりでに前へと進み出ていた。
「崇裕、やったね。こんな機会、めったにないで！」
崇 「…そう、やろうけど……」
「めったにどころか、もうないかもなんやで？やるしかないやろ。」
崇 「A…」
バシッと崇裕の背中を叩くと、微かに震えているのが伝わってきた。
『うん、緊張せえへんわけないよな…』
それでもこのチャンスを掴んでほしくて、今度はそっと前に押す。
すると、普段ならびくともしない大きな背中が、ゆっくりとだけど動いてくれて。
崇裕は望美さんと真正面から向き合って、ぺこりとお辞儀した。
崇 「…よろしく、お願いします」
望 「こちらこそ」
『よかった。よかったね、崇裕…』
心の中で呼びかけたのが聞こえたのか、くるりと崇裕が振り返った。そして私の手を取り、思い切り自分の方に引っ張る。
崇 「ごめーん、肝心なこと言い忘れてたわ」
前にも聞いた覚えのある台詞に、無性に心臓がざわついた。
まさか、もしかして。嘘やろ？
崇 「歌う時は、Aも一緒やからな！」
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作者名：真奈美 | 作成日時：2018年4月22日 0時
