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『……崇裕のこと……困らせてるやろか……』
崇裕の説得を最後まで受け入れず、視聴覚室を出たのが1時間前。
その間に家庭科部へ顔を出したけど、塩と砂糖を間違えて部長の智子に「頭を冷やしてきて」って言われて追い出されてしもうた。
とぼとぼと渡り廊下を歩きながら、この後のことを考える。
クラスの展示はとっくに準備が調っていて、あとはもう当日を迎えるだけ。
部活も、少なくとも今は出来ることがない状態や。
崇裕を困らせたない。
でも、望美さんと崇裕のステージは、客席で聴いていたい──。
この気持ちを、分かってほしかった。
いつまでも、いつまでも、崇裕の横にピッタリくっついていてはいかん。
崇裕を本当に想うなら、崇裕の夢を一番に考えていたいんや。
そのための準備を、ちゃんとしておきたかったんや。
二人の音楽を客席から聴くっていうのは、そういう私の『覚悟』やった。
ただ、こういう状況になって痛感する。
『私、自分で思ってるより音楽が好きやったんやなぁ』
もっと言えば、崇裕達とのバンドが楽しくて仕方がない。
音楽室で一人ピアノを弾いていた時より、今の方がずっとずっと心が弾んでる。
？『これで終わりね泣かないの』
文化祭の準備で騒がしい空気を縫って、透き通った声が鼓膜を揺らした。
口笛みたいな、内緒話みたいな、それくらいの音量で。
なのに、たしかに、私まで届いた。
周囲を見渡すと、望美さんが中庭の隅にたたずんていた。
花壇に隠れてるから、人目につかずに済んでるみたいやけど……。
『アメリカに行くって聞いてから、皆の望美さん熱がヒートアップしてるんよな』
そばに浜名さんの姿もないし、在校生に見つかったら明日のライブどころやない。
「望美さん、場所移りましょう。」
望 「え！？ちょっ、ちょっと！Aちゃん！？」
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作者名：真奈美 | 作成日時：2018年4月22日 0時
