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「そろそろ帰るわ」
そう言って海人が出てったのが数十分前
結局いきなり押しかけてきた理由はわからなくて
でも突然連絡もなしに押しかけてくるなんて初めてで
明らかにいつもと違った海人を不思議に思った
「私何かしたかな?」
そう思って考えるけど
いつもより強いお酒を飲んだせいで
頭の痛みはいつもよりすごくて
「頭痛いし、今日は寝よ」
ガンガン痛む頭を抱えてベッドに入る
自然と重くなってきた瞼に逆らうことなく目を閉じる
久々に海斗の夢を見た
ぼんやりとしか思い出せない
「A!」
そう呼ぶ海斗の声はわかるのに
顔がなんだかぼんやりしてた
立ち姿も喋り方も笑い方も泣き方も
全部海斗なはずなのに
ばやけてうっすらとしか見えなくて
なんとなくしかわからない
____海斗ってどんな顔してたっけ?
目を開ければ見慣れた天井に
窓から少し差し込む朝日
海斗と別れてから大体一年半ぐらい経った
極力振り返ることをやめて
深く思い出すことを避けてきた
あの頃の私の生活の大半には海斗がいて
別れた今も身を潜んでいる
綺麗に並んでる本にも
テレビ下に重なってる映画のDVDにも
鞄についてるキーホルダーにも
わかりやすい思い出には
触れないように
毎日を過ごしてきた
思い出すのが怖いのは思い出にできてないから
思い出したら気持ちが戻る
それが怖かった
今、過去を振り返ったら気持ちが戻ることも
自分自身で気づいてた
それでも私は忘れる方が怖かった
あんなに忘れようとしてたのに
思い出せなくなるのが怖かった
本棚の横に置いてある箱の奥底から
分厚い冊子を取り出す
「…懐かしい」
卒業文集
達筆で書かれたその表紙をなぞる
そして大きく息を吐いて深呼吸をして
重たい1ページを開いた
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作者名:ぽぽちゃ | 作成日時:2021年8月31日 17時