イヤーカフ (ページ28)

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「ちなみに言うと海斗もモテてたよ」

あ、現在進行形か

なんて言って先を行く元太に

少し心がざわつく

「そうなの？」

平然を装ってそう尋ねれば

「この前告られたって聞いたよ

　まぁバンドマンってモテるしね～」

俺も久々やろうかな～

ってベースを弾く真似をしながら歩く

「この前告られた」

それが頭から離れなくて歩くスピードが落ちる

それに気づいた元太は足を止めて振り返って

「また何も聞かないの？」

「…え？」

「怖い？知るのが」

「…」

「もう独り言は言わないからね」

少し重い空気が流れる

もし、海斗がその子と付き合ってたら

私はどうなっちゃうんだろう

海斗の夢を見る機会は以前より減った

それは紛れもなく2人のおかげで

前よりは吹っ切れた

それはわかるけど

まだ心のどこかで

"思い出にしたくない"

って気持ちが存在していて

今まで平常を保ててたのは

知らなかったから

何も知らなければ自分の都合いいように解釈できて

知ろうとしなければ

無理に傷つきもしない

ずっと平和な道を歩んで

向き合わずに傷つかずに生きていける

「…うん、怖い」

きっと知ってしまったら壊れてしまう

それが自分でわかっていた

「じゃあ言わない」

元太はそう言ってまた歩き始める

「Aはもう少し周りに頼った方がいいかもね」

俺でも海人でもいいからさ

別れ際にそう放った元太

その言葉が頭から離れなくて

いつもよりゆっくりとした足取りで家に帰る