loss of memory 阿部恋シリーズ (ページ23)

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慎太郎くんと山梨さんがよくお見舞いに来てくれて、たまに滝沢くんが来て、それから阿部さんが来てくれるようになった。

｢Aちゃんこんにちは｣

『こんにちは』

｢はい、これ良かったら食べて｣

『いつもありがとうございます』

病室の扉が開く度に、阿部さんが来てくれるんじゃないかなんて思っていつもドキッとしてしまう。

なんだか不思議な感じ。

『…今日もお仕事だったんですか？』

｢今日も仕事だったけど終わったからAちゃんに会いに来たんだ｣

『毎日お仕事なのにすみません。来てもらって』

｢ううん。俺がAちゃんに会いたいから来てるから。謝らないで｣

ほぼ毎日仕事なのに合間に来てくれたりと、忙しいはずなのに気を使ってお土産まで持ってきてくれる。

｢なんか食べたいのあったりする？｣

『え？』

｢あんまり、女の子がどんなの食べたいかわからなくて｣

『…大丈夫です。そんな、気を使ってもらわなくても…阿部さん負担かけちゃうし…私は…』

阿部さんが来てくれるだけでそれでいい。

出かけた言葉を慌てて飲み込んだ。

『こうやって会いに来てくれる人がいるだけで十分なんです』

偽りの言葉を阿部さんに伝えると、優しく笑いかけてくれた。

なんで、あんな事を言おうとしたんだろう。

｢…Aちゃんに会いたい人は沢山いるんだよ。俺以外にも｣

優しく笑いかけてくれてるのにどこか寂しそうで、変なことを言ってしまったんじゃないかと不安になる。

『…阿部さん』

｢もちろん、俺もその1人でね。うちのグループのラウールって最年少かすごく会いたかがってるんだよ｣

一瞬見せた寂しそうな、悲しそうな表情がパッと笑顔に変わった。

なんだか、その悲しい表情を隠すように。

でも、その事には触れられなかった。

なんだか触れてはいけない気がして。