unexpected *１３２ ページ47
ーーあなたsideーー
時は、壁内へ帰還したその晩に遡る。
今の私は、きっとベッドの上で、天井の木目を数えているように見えるだろう。
体をベッドに投げ出したまま、ぼんやりと虚空を見つめながら、脳にひとつの本能を唆されている。
ーー何を見ても、食べたい以外の感情が沸かない。
エレンの腕も、固いパンも、見張りに立つ兵士も、冷めたスープも、みんな同じ。
あ「……」
冷静に自分の状態を見定める。
舌が痺れている。
内臓が収縮を繰り返している。
頭が痛い、目眩がする、思うように体を動かすことができない。
それが全部、お腹が空いているからだとしたら。
あ「満たせばいいんだ」
フラ、と扉に向かってだるい体を起こす。
ベッドの脇にある棚に、スープが入っていた空の器があったことに気づかず、手が当たった。
カラン、と軽い音を立てて器は床に転がる。
床にその音は自分の足元から発せられているはずなのに、遠くから聞こえたように感じた。
扉の向こうにいる兵士はこちらに気づかない。
欠伸をして、気だるそうに寄りかかっている。
あ(……そうだ、食べたいなら食べればいい。だって、そうしないと、この渇きは終わらない)
扉の上部に小さく空いている鉄格子。
その隙間に向かって手を伸ばし、扉を隔てた先にいる兵士へーー。
視界に、自分の手のひらが写りこんだ。
あ「……っ、あ？」
血色が悪い皮膚が目に入った瞬間、私は完全に我に返った。
ーー今、私。
無意識にベッドから立ち上がって、扉の前まで来ていた事実にゾッとする。
急いでベッドに戻り、薄い布団を被った。
口の中が、どこからそんなに湧き出たのだという程唾液で溢れていた。
胃が、脳が、体が、「食べないのか」と訴えている。
あ「食べるわけない、ふざけるな、ばか、何してるんだ……！」
自分を罵る言葉で必死に誤魔化したが、恐ろしくて堪らない。
私はとうとう、食べ物と人間の区別さえつかなくなってしまったの？
あ「う……」
ほろほろと涙が零れた。
それすら、「もったいない」と思った。思ってしまった。
ああ、どうしよう、だってどうにもできない。
体は食べたがっているーー生きたがっている！
あ「ーーッ！！！」
ガリ、と耳障りな音が布団の中でほのかに響いた。
右親指の付け根に向かって、躊躇なく歯を突き立てた。
これが、壁の中に来てから、初めての自傷行為だった。
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柚音(プロフ) - サンゴさん» お返事遅くなってすみません！ありがとうございます！ゆっくりとですが完結まで書き終えられるように頑張ります！コメントありがとうございました！！ (2019年1月20日 3時) (
レス) id: ba4520d13c (このIDを非表示/違反報告)
サンゴ - 続きめっちゃ気になりますっ！！ (2019年1月17日 22時) (レス) id: f7865afa83 (このIDを非表示/違反報告)
サンゴ - 話が深くて読んでいて面白いです！ (2018年11月19日 18時) (レス) id: f7865afa83 (このIDを非表示/違反報告)
柚音(プロフ) - 赤間利衣さん» あけましておめでとうございます！閲覧頂きありがとうございます！更新頑張ります！ (2018年1月2日 1時) (レス) id: ba4520d13c (このIDを非表示/違反報告)
柚音(プロフ) - ちさきさん» あけましておめでとうございます！コメントありがとうございます、更新頑張ります！ (2018年1月2日 1時) (レス) id: ba4520d13c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：柚音
| 作成日時：2014年5月20日 19時
