あなたがたった一度の恋でした２【水と炎で逆ハー】

其の陸拾壱 義勇視点２５ ページ11

「だが、なぜ桜だけなんだ？」



そう、自分たちはどれだけ剣技を使っても倒れるようなことはなかった。

体力の限界はあっても、それ自体が原因で意識を失うようなことはなかった。



「もしかしたら、拾ノ型は時を止める代償として使う側の体に大きな負担をかけてしまうのかもしれませんね」

「代償……」

「反動ですね。著しい呼吸の乱れ、発熱、極度の疲労感はそのためです」



『私の仮説にすぎませんが』と付け加えたしのぶだが、二人は間違いなくこれが原因だと決め込んでいた。



「時を止めることが体に悪影響を及ぼすのだとすれば今後はこの技の使用を控えさせるべきです」



きっぱりと言いきったしのぶに義勇は静かにうなずいた。

目が覚めたら桜に言わなければ。

桜がこうなったのは拾ノ型を使う反動だからだと。

だからもう、使わないでほしいと。

こんな思いをするのも桜のあんな姿を見るのも、もうたくさんだ。

今回はこれですんでも、次に使ったら？

使うたびに桜の体への負担も増していき、命にまで関わったらーー




考えただけで義勇はまるで吹雪の中に放り出されたかのような寒さに凍りついてしまった。



「私は回診に行きますので、冨岡さん桜さんをお願いできますか？」

「ああ」



しのぶが立ち上がると入れ替わるように義勇がそのイスに腰かける。



「くれぐれも“見る”だけですよ？それから何かあればすぐ呼んでください」

「…………わかった」



念を押すようにしのぶは義勇に言い付けると部屋を出ていった。









今は穏やかに眠る桜の頬を義勇は指の背で優しく撫でてやる。



「桜、早く目を覚ましてくれ」



祈るように桜の手を両手で握り締めそこに顔をうずめた。



体を休めるために深い眠りへついた桜。

回復は早いのだろうか、それとも長くかかるのだろうか、言い様のない不安が義勇を襲う。





目覚めない、なんてことはないよな。

早くその瞳で俺を見つめて、その唇で俺の名前を紡いでくれ。

そうしないと安心できないから。




義勇は桜が目を覚ました時、一番に気付けるように片時もその傍を離れなかった。

あの時、桜の傍に行けなかったことへの埋め合わせをするかのように。

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