あなたがたった一度の恋でした６【水と炎で逆ハー】

其の弐佰玖拾壱 遊郭編７ ページ40

桜は天元の話を聞きながら、果たして自分にその役目ができるのだろうかと悩んでいた。

柱である天元が敢えて鬼の棲むという場所に潜入させたくらいなのだ、奥さんもきっと優秀に違いない。

それなのに見破られたとなると、荷が重い気がするのだ。

戦いなら桜の方が格段に上だろうが、潜入して情報を集めるというのは経験が不足していた。

あの時、安請け合いしてしまったことが今更になって不安になってきた。



｢花街は鬼が潜む絶好の場所だと俺は思っている。現に、店の女が何人か姿を消しているらしい｣



一度は天元が単身で客として潜入してみたが鬼の尻尾が掴めなかったため、嫁三人には内情視察に入ってもらったらしい。

天元の予想は的中していたが、それと引き替えに彼女たちが行方不明になってしまったと。



｢すでに怪しい店は三つに絞っているから、おまえらはそこで俺の嫁を探して情報を得る｣



たくさんある店の中で三つまでに絞り込むことができたのは流石だと桜は思った。



｢“ときと屋”の“須磨”、“荻本屋”の“まきを”、“京極屋”の“雛鶴”だ｣

｢もし情報が手に入った場合、情報交換はどのように？｣

｢定期的に落ち合って報告し合う｣

｢分かりました｣



上手くできるだろうかという心配や不安は消え去らない。

だけど、彼女たちを助け出したい。

だいたいの流れと、しなければならないことを桜たちが理解した時、またもや空気を読めない人間がいらぬ口を挟んだ。



｢嫁もう死んでんじゃねぇの？｣

｢！？｣
｢！？｣



デリカシーのなさすぎるセリフを、耳をほじくりながら吐き出す伊之助に桜と炭治郎はあんぐりと口を開け驚いた。

その伊之助の鳩尾を天元が拳で手加減なく殴りつけた。

その威力にノックダウンした伊之助が畳の上に伸びてしまう。



｢こら！伊之助！！思っていてもそれを口にするのはダメじゃないか！！｣

｢いやいや！思うこと自体がダメなんですよ、炭治郎くん！｣



フォローのつもりが全くフォローになっていない炭治郎のセリフに桜は手を左右に素早く振りながら再度フォローを入れ直した。

ちょうどその時、襖が開いて藤の家の主人が入ってきた。



｢ご入用の物をお持ち致しました｣

｢どうも｣



天元は礼を言って、持ってきてくれた物を受けとるとさっそく用意を始めた。

これから桜たちに潜入してもらうのは、吉原の遊郭にある店。

それなりの格好が必要だからだ。

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